はじめに
地域活性化、地方創生が叫ばれて久しい。経済振興といった政策以外にも、移住定住を促進しようと都会でPRする動きや、支援制度が拡充されてきた。しかし、東京の大学へ進学した私がUターン就職しようとしたときに感じた「見えない壁」に光が当てられることは残念ながら無かった。
本稿ではこの壁を指摘しつつも、批判や悲歎が目的ではなく、地域経済の振興ひいては日本経済が浮揚するきっかけになればと筆を執る次第である。
氏名:生田章訓
所属:株式会社レクサー・リサーチ
趣味:釣り&サウナ好き。
経歴:倉吉東高校⇒東京大学卒業。地元就職を考えるも幻滅し、断念。大学院進学後、東京で就職し腕を磨く。その後Uターン。
※発言は個人の体験に基づく私見であり所属団体の意見を代表するものではありません。
求職者として感じていたこと
<年収>
求人倍率はある程度高く、仕事を選ばなければ仕事はある状態だった。ただしある程度の基準で仕事を選別してしまうと、途端に数が少なくなる。たとえば年収の面。毎月の額面給与が20万円かつボーナス1.5カ月×2回で年収300万円だが、これを下回る求人がほとんどであった。
田舎は物価が安いと言われる割には、自動車は必須であり、むしろ自動車にかかる費用は都会と差が無い。この給与水準では、物質的に豊かな生活は望めないと考えた。
<やりがい>
仕事内容に目を向けてみる。やりがいは大事だ。とくに都会から田舎へ転職したい人は、給与アップを求めていない。やりがいや意義を求めている。少なくとも私はそうだった。
やりがいとは、自分ならでは貢献を通じて今までにない価値創出に挑戦することと考えた。ただ、求人内容を見ると、コンビニバイトのように仕事内容が定型的で、先輩社員の模倣をすることが求められるような仕事ばかり。いわば「欠員の補充」だ。私はそういう印象を受けた。
欠員補充の場合、求人企業が求める要件は、前任者と同等かそれ以上の能力を持った方を、前任者よりも狭い裁量、低い職位で、つまり前任者と同等かより安い給与で採用することではないか。この求人内容では、企業側が求めていない以上、私が付加価値を与えることは難しいと私は考えた。
このような求人が悪い、ダメだと批判しているわけではない。ただ、ほかの大勢よりも優秀であろうと考えていた当時の私にとっては、働きたくないと思うに充分であった。
<自分自身>
逆説的に言うと、私が求めていた仕事は、たとえば、
①そもそも前任者がない新しい仕事。つまり新設のポストに就き、戦略的な業務を担う。例)新規事業の開発
②前任者はあるが、前任者よりもより高い成果が求められる仕事。歩合的な考え方に基づき、給与は前任者よりも高くなる場合がある。例)ソフトウェアエンジニアのような専門性高い仕事
③前任者があり、前任者(先輩)よりも職責も給与も下がったとしても依然として高い水準であるような仕事。例)大企業、銀行、公務員。
のような求人を私は求めた。 ただし、付加価値があると言えるのは①②であり、③は必ずしもそうではない。③は給与が高い分、やりがいが薄くとも、妥協できる可能性があると考えた。真の意味で求めたのは、①または②である。このような求人が、果たして、県内の採用市場にどの程度露出していただろうか。
①②のような求人が県内の採用市場に上っていなかったから、求人が無いと私は判断した。ということは、私の能力の程度はさておき、私以上の人材が応募する先が県内に無いということである。就職が決まらない以上、鳥取に帰れないと考えた私。都会に出たものの、帰りたいけど帰れない。都会と鳥取の間には、高い壁があった。これが私の思う「見えない壁」の正体である。
「お前のような学歴だけの実績無い人間が、高望みしすぎだ。仕事はあるんだ。身の程を知れ。」というご意見が想像できる。尤もである。そのような批判は大いに結構である。そのような意見は多々あれど、都会には①②のような魅力的な求人があふれていた。そうして私は都会で、つまり壁の向こう側で就職しただけのことである。
その後Uターンしてきたことが示すように、地元でマッチングが起きないのは、求職者ではなく、企業の問題だと私は考える。学生が”地元企業”を選考した結果、落選したというだけである。これは学生側の問題ではなく地元企業に責任がある。
最後に
「見えない壁の正体」
見えない壁とは、学生の期待する求人と、地元企業の実際の求人の質とのギャップである。 第二部では、このギャップを埋める方法を提案したい。