事例

鳥取市の繁華街、弥生町のいま コロナで苦境に立つスナック経営者に聞く

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旬刊政経レポートとのコラボ

 月に一度、旬刊政経レポートと記事交換をするコラボをさせていただいています。第12回目は【鳥取市の繁華街、弥生町のいま コロナで苦境に立つスナック経営者に聞く】という記事を掲載させていただきます。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて苦境に立たされている飲食業界の中でも、「三密」が発生しやすいなどとして特に厳しい状況に置かれているのが、いわゆる「接待を伴う飲食店」。その現状や課題、経営者の思いなどを探るべく、鳥取市の繁華街、弥生町の店を訪ねた(2021年2月5日現在)。

お金の補助少額でも継続的な方が…

 国内でコロナが蔓延し始めた昨年2月から、「志村けん」が死去する3月29日までは、弥生町の街はいつも通りの賑わいを見せていたという。

 「やはりその影響は大きかったんでしょうね。その日を境にぱったりと客足が途絶え、その後も一日数人という日が続きました。非常事態宣言が出たゴールデンウィークには休業もしました。でも、今が一番ひどい状態です」。

 外に出ると、閉店や休業の貼り紙のほか、不動産会社による「テナント募集」の看板もちらほら。この状況に耐えられずやめてしまった店が結構あるという話も聞くが、実際のところはどうなのか。

-閉店や休業を知らせる貼り紙も-
-すでに閉店しテナント募集となっている店-

 「私が知る限りでは、そんなに多くの店がコロナで廃業しているという感じはしない。元々業績の悪かった店とか、店主が高齢で跡継ぎもない店が『この機会に』店をたたむという話は聞いた。また、休業はするけど、落ち着いたら再開するという店もあります。逆にコロナ後に新しくオープンする店も結構あって、減る一方ではないのは確かです」。

 次に、店の経営状態について聞くと、「ずいぶん前から綱渡りの状態が続いている」というのが現状のようだ。

 ある店では「店の経費だけは何とか確保しているが、女の子達は申し訳ないけど何人か辞めてもらい、私の給料はずっとゼロ。残った子たちは『ママ、今は給料下げて』と言ってくれました。この前、保険を解約しちゃいましたよ」と話す。

 また他の店では「家賃が滞っている。『コロナの助成金が出たから払えるでしょ』なんてことも言われましたが、そんなのすぐになくなりましたよ。それだけ資金繰りは厳しい。日々のことを考えるとため息が出る」と話す。

 国の持続化給付金(上限100万円)や感染拡大防止対策経費に使える補助金(上限50万円)のほか、鳥取県でも新型コロナウイルス感染拡大予防対策推進事業補助金(補助率10分の9、上限20万円)や、飲食店クラスター対策緊急補助金(補助率10分の9、上限20万円)など、使える補助金はある。

 しかし、「ありがたいが付け焼刃。一時的にまとまった額の支援金をもらうより、月々いくらといった『その場しのぎのお金』を継続的にもらえる方がありがたいかも」という声も聞いた。

 「新型コロナウイルス感染予防対策協賛店」という制度もある。県が作成した予防策や各業界のガイドラインを参考に、感染拡大防止策を施している店が認定されるもので、店側としては、その安心感を誘客につなげたい狙いがあるほか、県の各種補助金の交付条件にもなっており、鳥取市の繁華街の飲食店も数多く協賛店に名を連ねている。では、実際にどのような対策を講じているのだろうか。

 まず入店時の検温と消毒、連絡先を含む記名、これは取材した店には全て設置されており、弥生町はほとんどの店で同様の対策がされているようだ。

 そのほか、カウンターもテーブル席も、一人ずつ透明のパーテーションで区切られ、隣に座った人とも、それ越しでの交流となるため飛沫が飛ぶ心配が減る。テーブル席は普段の半分程度に減らし、間隔が空けられている。  

 また、スナックなどではカラオケを楽しむ客も多い。感染リスクが高いということで、マイクのヘッド部分をガードし都度消毒を施したり、テーブル席の一部をつぶして飛沫飛散防止カーテンとパーテーションで“完全防備”している店も。

マスク着用義務化してほしい

 次にマスクの着用について。いずれの店も、来店者にはマスクの着用を“お願い”しており、多くの客がそれに従っているそうだ。

 ただ、コロナ禍初期ほどではないにしろ、一部にはマスク着用を拒む客がいるのも事実で、それがさらに常連さんだとなると、気分を害しかねないため、注意はなかなかできないという。

 また、お酒が進むにつれて気が大きくなったり感覚がマヒしてしまったりと「気がついたらマスクもパーテーションも外してしゃべっている客もいて、困惑する」との声も。

 店員側はどうか。県内で従業員のマスク未着用が原因でクラスターが発生した例もあり、一般的には従業員もマスク着用という流れだが、接待を伴う店舗以外の飲食店も含めて、接客の際のマスク着用には賛否がある。

 「私や店の女の子、その家族も含めての健康がまず心配です。赤ちゃんや小さな子の親も多いですしね。さらに、私たちがコロナの媒介者になってしまったり、感染者が出て店名が曝されたりしたらどうしようという恐怖もある。でも、マスクを付けていたら『外せ』と言ってくる常連さんもおり、常連を失う怖さから外してしまう女の子がいるのは確か」。

 「店の常連さんが感染していたという事が一度あって、幸い店の関係者や他の客は大丈夫だったんですが、その時に悩み過ぎて発熱してしまい…、マスクはしていましたが『もしかしたら』って、本当に生きた心地がしなかった。マスクは付けてほしい」などの声がある。

 コロナ禍直前の2019年12月、大手のイオンが「全従業員のマスクを着用しての接客を禁止」する措置を講じていた。その理由の一つが「お客様に失礼」というものだった。

 コロナ前のあるアンケートで、マスクをつけての接客に対し「自分が拒否されている感覚になる」「客を不潔だと思っているみたい」という人が一定数おり、実際に取材で聞いた中にも、常連客らから「俺はバイ菌じゃない」などと叱責された例があった。

 ある店の経営者は「この際、行政が『マスクを外しての接客を禁止する』みたいにしてくれれば、皆が納得してくれるのかもしれない。でもやっぱり、常連さんが来なくなるかもという事も怖いですし…」と心中は複雑だ。

 鳥取市の繁華街ではまだ目立った動きはないようだが、全国的には苦境に立たされた夜の街を何とかしようということで、「オンラインスナック」であったり、必要以上に「これでもか」というほど感染防止策を施したうえで、「コロナ疲れを癒しに来て」と新たな客を獲得したり(共に札幌・すすきの)、知恵を絞ってコロナ禍を乗り切ろうという動きもある。

 「これから、さらに厳しくなる可能性もあるが、ワクチンがもうすぐできて、またしばらくしたら一般の人に行くようになるといいます。なんとかそれで落ち着いてほしい。まずはそれまで、何とか頑張ります」。

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