地域のプレイヤー

森林の制度と税金から考える新環境時代

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環境意識が高まってから20年

 ニュースでも環境問題という言葉が使われるようになって、早いもので20年以上が経ちました。今の大学生にとっては物心ついた時から使われている言葉で、もはや環境には問題があるのが当たり前のようになっていることかと思います。

 もうすぐ35歳になる僕にとっては10代のころに聞いた環境問題は衝撃的でした。TVで大人たちが「地球は温暖化して、20年先には住めなくなる!」といった議論をしていました。僕は、人類が宇宙に出る未来も近いのか、とアニメのような空想をしていました。それは冗談ではなく、大真面目に未来が不安でした。あれから20年、今のところ僕はまだ地球に住んでいます。

 そんな現状だからか、気候変動への危機感は、現代の日本では薄いように感じます。あるいは八百万の神々の時代から続く災害受容のDNAが理由なのか。どちらにせよ、危機感の根底に必要とされる自然環境への配慮は低く。それは、地方の方がより一層薄く感じています。余談ですが、夜になると人工の灯りの一切見えない山奥の自然しかない村に住んでいるおじさんの中にも、平気でタバコの吸い殻を川にポイ捨てする人もいます。自然豊かな地方だからこそ環境問題と言う世界的なスケールでの話は身近な問題でなくなっているのかもしれません。

 世界的にみると、オーストラリアやサンフランシスコでは大規模な森林火災、中国やアジア諸国では大規模な洪水と、気候変動の影響も一因と考えられる大規模な災害が起きています。そういった状況や、SDGs(持続可能な開発目標)の策定からも分かるように、このままの社会では持続不可能だという危機感が国際社会で高まっています。

 さて、そろそろ本題に入ろうと思いますが、今日お伝えしたいのは「エコバッグを持とう!」とか「ステーキは環境負荷が高いから食べるな!」と言った個人の行動の話ではありません。お話したいのは、時代の変化とその変化に対応したビジネスや社会システムの在り方についてです。そして、より実践的な話題としての「森林」の話が本題です。法律的な話も入ってきて小難しいとは思いますがお付き合いいただければ幸いです。

気候変動ビジネスシーンの変化

 気候変動ビジネスと言うと10年前は軽い皮肉にも使われていた気がします。「あそこの企業は環境問題を掲げることで、いい顔をして税金をうまく引っ張ってきている」というような皮肉、というか陰口ですね。しかし、その気候変動ビジネスの状況も大きく変わったように思います。何が変わったかと言うと「緩和ビジネス」に加え「適応ビジネス」が広まりました。

 この二つの違いをざっくり言うと、いかに温室効果ガスの排出を抑制しているかというセールスポイントと、いかに環境の変化に対応できるかというセールスポイントの違いです。自販機を例に挙げると、「気候変動を抑制するため省エネやノンフロン化しています」をセールスポイントにするのが緩和ビジネスで、「気候変動によって頻発する災害に適応できるよう電源とライフラインの機能があります」をセールスポイントにするのが適応型ビジネスと言えるでしょう。

 もっとわかりやすく言うと気候変動に対し予防的なのが「緩和ビジネス」、気候変動に対し対策的なのが「適応ビジネス」です。

 こう書くと「それなら予防する緩和ビジネスの方がよりクリティカルなのでは?」と思う方がおられるかもしれません。ここで重要なのは「緩和ビジネス」と「適応ビジネス」のどちらかが優れているという話ではありません。重要なのは、ビジネスの捉え方の一つであること、そして、社会としてはどちらも大事だということです。

 ただ、実は「適応ビジネス」の事例として取り上げられるものの多くはスケールの大きな国際的なビジネスがほとんどです。社会インフラの話であったり、国家的なプロジェクトと直結していたりします。また、適応とは環境の変化へ対するだけではなく、それによって生じるリスクへの適応とも言われています。ここまであえて触れていなかったのは、それが「適応ビジネス」の肝ではないと考えているからです。

 では何が肝なのか、参考にしたSAFEの記事中の文を引用すると

「適応策が必要な場所は、地域によって課題が大きく異なります。たとえば、沿岸部では高潮が問題となる一方、都市部ではヒートアイランドによる熱波や洪水が深刻です。農業生産が盛んな地域ではまた違った問題が発生するでしょう。個々に違う課題に対してイニシアチブをとれるのはやはり地方自治体です。」

「SAFE」

と書かれています。

 つまり、「適応ビジネス」の肝はビジネススケールが大きいことではなく、より地域と環境の実情に適応しているかということです。そして、それは地域レベルでこそ実現できるということです。そのために必要となってくるのが、地域内での自治体と産業や企業の連携です。となるとまた話が大きく聞こえるかもしれませんが、実は身近な話だということを、これからお話しする「森林」の話の中でお伝えできればと思います。

「森林」の新しい未来

 こちらの記事で紹介している「新たな森林管理システム」は、発想力次第で「森林」の新しい未来を実現することが出来ます。あなたが「この夏は一人キャンプをやりたいな」と思ったときや、「子供の自由研究を山でさせてあげたいな」と思ったとき、役場に行けばそういった山を紹介してくれて、いくらかの利用料を払うことで使うことが出来るようになるのです。

 または、あなた自身がそういった山を紹介するプラットフォームを運営することも出来ます。あるいは利用者から利用料を取るサバイバルゲームのフィールドやマウンテンバイクのコースの運営などを容易に行うことが出来るようになります。このシステムは、そんな未来を創る可能性を秘めています。

 蛇足かも知れませんが、こういったビジネスが地域における森林を活用した「適応ビジネス」としての可能性を大きく秘めています。ここにおける適応とは「適応ビジネス」で言われるところのリスクというネガティブな要素に対してだけではなく、現代人に不足しがちな、自然との触れ合いや、娯楽の充実と言ったポジティブな要素に対するものとして、何よりあなたの求める暮らしに対してです。

プライスレスじゃない水と空気

 皆さんにとって森林と言うのは身近でしょうか。この記事を読んで下さっている僕と同年代以下(30代)の方の多くが、昔は山で遊んだことがあっても、今現在はそうではないと思います。そんな皆さんが、毎年森林の保全のためにお金を徴収されることはご存じでしょうか。

 2019年3月に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立しました。これにより「森林環境税」が創設され令和6年度から国民一人当たり1000円が課税されることが決定しています。と、お伝えすると「森林に関りがないのにお金を取られるなんて理不尽だ!」と思われる方もいるかもしれません。

 この法律の根底には、日本の国土の67%を占める森林の生み出す空気や水の恩恵を受けずに育ってきた国民はいないという考えがあると思っています。

森林環境税と環境贈与税

 この税金の特殊なところは使い道を限定して課税されるところです。その使い道とは「森林整備及びその促進に関する費用」となっています。また実際のお金の動きですが、国がいったん集約し都道府県と市町村に配分されます。少しややこしいのですがこの自治体等にとっての税収を「森林環境譲与税」と言います。

 つまり、森林整備等を目的に国民から「森林環境税」として課税されたお金を国が集め、国から配分される「環境譲与税」という税収を自治体などが運用する、というのが「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」の大枠になります。

 ちなみに、国から鳥取県内に配分される森林環境譲与税の総額は令和6年度で約6億9590万円の予定です。実は環境譲与税の配分はすでに始まっており、令和2年度での配分額は約4億6300万円となっています。課税は2024年からとお伝えしましたね。集めてもないのにどうやって配るの?と思われるでしょう。僕も思います。この話はややこしいので省きます。

 森林環境税と言う名前に「なぜ森林だけ特別扱いなんだ!田畑や海も環境にとっては重要ではないのか!」と言う意見もあるかもしれません。この森林環境税の背景には、災害防止・国土保全機能強化等の観点が含まれており、その観点から森林であり山林が重要視されています。

私たちの生活を守ってきた森林

 山林での災害も皆さんにとっては身近ではないでしょう。しかし、実は近年の豪雨災害までとはいかないまでの大雨でも、昔は百人規模で死者が出る土石流を起こしていました。ほんの60年前まで山には今ほど木が生えてなく崩れやすかったのです。皆さんが想像する山の景色は戦後の拡大造林政策で植えられ成長した木々がほとんどなのです。 

 もし山間部で洪水が多発していたら物流やライフラインなど皆さんの生活に影響も出ているでしょう。つまり、山林での災害が身近ではないのは、今の森林があることによって未然に防げているからと言えます。

 しかし、一方で災害につながる可能性のある森林も危惧されてきました。それは拡大造林で植えられたものの、その後の社会変化により適切な管理がされなくなった未整備森林です。僕は個人的に「育樹放棄」された森林だと言っています。国としてはこの森林の整備にも重きを置いています。しかし、この未整備森林の問題は所有者の問題とセットになっています。

森林経営管理法

 所有者の問題としては、高齢化によって管理することが出来ないことや、そもそもの所有者が不明になっているなどがあります。こういった問題を解決するため、「森林経営管理法」が平成31年4月から施行されました。はい、また森林が頭に付く法律の話です。

 この法律は「森林経営管理制度」とも言われ、管理が行われていない森林について市町村が仲介役となり森林所有者と担い手を繋ぐ仕組みを構築することを目的としています。具体的に何が出来るようになったのでしょうか。今までは森林というのは個人の所有物であり、その管理は所有者の自由でした。

 しかし、未整備森林の危険性から、その管理は自由だけれど、適切な管理が所有者の義務であることが法律で定められました。恐らくこの記事を読んで下さっている方の中に山持ちは少ないと思うので関係が薄いですよね。

 この制度によって、所有者が適切な管理を出来ない場合は、その管理を自治体に任せることが出来るようになりました。これは裏を返すと、自治体は所有者から森林の管理を任せられることが出来るようになったと言えます。まだ関係が薄く聞こえますよね。でも、実はそうではないと考えています。

「森林」には空間利用のニーズがある

 皆さんも聞いたことがあるかも知れませんが、近年、森林を欲しいと思う人も増えています。それは一人キャンプなどのアウトドアブームによるものです。個人的に所有したいという森林に対する需要もありますが、アクティビティのフィールドとしての需要もあります。

 例えばマウンテンバイクやサバイバルゲームなどのフィールドです。こういった「森林の空間利用」の需要に対して、森林の供給に課題があります。その背景には、先祖伝来の土地であったりお墓があったりという所有者の山に対する価値観によって市場に出にくい問題や、家の仲介と比べるとニーズが多様すぎて単純にビジネス化出来ないといった問題が考えられます。つまり、森林を集約して仲介しているところがあまりに少なく手に入りにくいのです。

 察しの良い方は、お気づきだと思いますが、そうなんです。森林経営管理制度によって、市町村がその役割を創ることが出来るようになったのです。つまり、森林の仲介や空間活用がビジネスとして行いやすくなる可能性が出来たのです。

問われる発想力

 「いやいや、森林経営管理制度ではそんなことは出来ないでしょ」とおっしゃる方もいるでしょう。さては森林関係者ですね。そうです。森林経営管理制度は経営管理権=森林の適切な管理を行う権利を自治体が所有者から得ることが出来る制度だと説明しました。空間利用のための制度ではありません。しかし、それが出来るのです。

 この制度の肝は、所有者と自治体の間で作られる集積計画と言うものにあります。もう読み疲れていると思うので、難しい説明は省きます。分かりやすく言うと、所有者と自治体の間で結ばれる森林に関する契約です。その内容については、自治体と所有者である程度は自由に決めることが出来ます。つまり、その契約の中に明確に空間利用権を定めることが出来るのです。

 これはもちろんこの制度の本筋ではありません。しかし、この制度の使い道の一つとして実現可能な話です。国の政策は必ずしも地域の実情に則したものではありません。そのためそういった政策の多くが地方自治体にカスタマイズする余白がつくられています。大事なことはその余白を活かす発想を地方自治体が出来るかどうかです。

鳥取県の「新たな森林管理システム推進センター」

 鳥取県では、そういった自治体の主体的な活動を支援するため、「新たな森林管理システム推進センター」を設立しました。なぜ潤沢な予算があるのに対し、わざわざ全県的な組織を設立し支援を行うかと言うと、自治体には森林の専任職員が一人役もいないのがほとんどだからです。

 なぜそういった現状になっているかというと、そもそもの森林というのは個人の所有物であり、役場が主体的に管理するものではなかったからです。例えば、自家用車というのは個人の管理ですよね?それが、ある日突然、「最近高齢者の事故が多発しているので、運転の危険なもしくは整備のされていない自家用車は、君が管理するように」と言われたら困りますよね。

 森林経営管理制度というのは役場にとってはこう言われたも同然なんです。 そんな自治体に対し、センターでは情報や技術の支援を行っています。その具体的な業務の中で、いわゆるデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)の必要性と可能性を痛感しています。もちろんこれもビジネスチャンスです。

「新たな森林管理システム」

 先にご紹介した二つの森林に関する二つの制度、森林環境税と森林環境譲与税および森林経営管理制度。この二つを活用した、森林のこれから仕組みを「新たな森林管理システム」としてセンターでは推進しています。ただこの言葉と定義については県内でも議論がされているところですし、全国の森林関係者がそれぞれで考え方を持っています。

 森林の活用に関する問題は、シンプルに言うと金銭的な課題と権利的な課題です。「新たな森林管理システム」では、金銭的な課題を環境譲与税でカバーし、権利的な課題を経営管理制度で整理することが出来ます。

 これは、ここまでお付き合いいただいた皆様にはご理解いただけるかと思います。同時に、とは言え主体は地方自治体で、森林や環境に関心があっても、自分たちの出る幕はないように感じられていると思います。

木材生産

 「新たな森林管理システム」に関する議論の課題として、登場人物の少なさがあると思っています。というのが、現状でこの議論に参加しているのは行政関係者と林業関係者です。自治体によっては育樹放棄された森林が多く、適切な管理を林業事業体が行うことだけでも、その自治体に入る環境譲与税では資金が足りないこともあります。

 だからまずは行政関係者と林業事業体だけで議論をする。これは妥当な考え方にも見えます。しかし、だからと言ってそこで完結させてしまう必要はないはずです。

 むしろ、森林のこれからを考えるためにはもっと広い視野と人材や産業を巻き込む必要があります。なぜなら、権利的な課題が解決出来るだけでも行える森林の活用があるからです。これは森林の仲介や空間活用ビジネスの話でご理解いただけたと思います。そう考えると、議論の課題とは、森林のビジネスモデルを木材生産という一次産業だけでしか捉えられていないこととも言えます。

 そもそも、ビジネスモデルとして木材生産には大きな問題があります。それは原価の問題です。安価な外材の流入によって、日本の木は単純に切って売っても費用の方が高くつくのが現状です。そこに税金を投入して成り立っているのが日本の森林産業の現状です。

森林の六次産業化

 この現状を打破するためには三つのアプローチが必要だと考えています。

 一つ目は生産者の販売形態の変化です。これは、鳥取県でも進められているサプライチェーンの話などですが、また長くなるのでここでは省きます。

 二つ目は消費者の関心の向上です。これは端的に言うと、皆さんに地域の木材を使いたい、地域の木材を使った商品だから買いたいと思ってもらえるようにすることです。ブランド化や、身近な商品への木材利用などが考えられます。

 三つ目は森林の収益構造の変化です。例えば高層ビルの最上階のホテルで食べる高価な料理を食べてください想像してください。一食数万円するその食事の価値は、その食材の原価とシェフの人件費に対するものだけでしょうか。恐らくそうではないはずです。そこには空間的な価値、そこで食事をする特別な価値も含まれるはずです。そう、森林の収益構造を木材生産だけで考えることは、原価と人件費でしか考えていないにも等しいのです。

 この三つのアプローチは、一次産業的な木材生産をベースとして強化し、二次産業的に木材利用の拡大、そして三次産業的に森林空間を活用する、いわば森林の六次産業化とも言えます。

みんなですすめる森林づくり

 では、その六次産業化はどのように進むのか。それは行政関係者や林業関係者ではない、第三者からの声だと思っています。その第三者とは、非難するだけのクレーマーのことではありません。環境や森林に関心があり、その領域で活動したいプレイヤーのことです。

 それは森林保全に関するNPOかもしれません、森林での空間活用ビジネスを考えている起業家かもしれません。あるいはDXを進めたいIT企業や、環境教育のフィールドを探している教育関係者かもしれません。

 先にも挙げた通り、自治体だけではそういったプレイヤーを主体的に巻き込んでいく余力がありません。だからこそ、プレイヤー側からのアプローチが必要です。しかしプレイヤーにとっては今回お話しした制度の話などは、知られる機会の少ない情報だと思っています。だからこそ、今回記事としてまとめようと思いました。知ったことで何かしらのアプローチを考えてくださる人が一人でもいてくだされば幸いです。

 譲与税の考え方にもあるように、この話は皆さんにとって全くの無関係ではありません。日本に住み、水と空気という森林の恩恵を受ける一人一人がユーザーであり出資者です。自治体の発想力が問われるのと同時に、私たちの発想力も問われているのかもしれません。

プロフィール

氏名:平賀謙太

経歴:鳥取大学地域学部を卒業後、八頭町にて農業支援の「農拡機動隊」を始める。その後、「地域おこし協力隊」として農業の支援、そして集落での活動、地域の拠点づくりを行う。協力隊卒業後は、この資源循環・人口循環・経済循環の環(わ)を廻すことを目指し、八頭町を活動拠点とする「一般社団法人ワノクニ」を立ち上げ、空き家の利活用・移住促進・地域活性をテーマに様々な活動を行う。そして現在は「新たな森林管理システム推進センター」の推進員を務める。

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