「新たな森林管理システム推進センター」とは
鳥取県に、「新たな森林管理システム推進センター」と呼ばれる組織があることをご存知だろうか。今回は、新たな森林管理システム推進センターの推進員である平賀謙太氏にお話を伺った。
どのような組織なのでしょうか?
それが今日話す内容で一番難しい話かも知れないです(笑)
僕の所属する「新たな森林管理システム推進センター」は、その名前の通り新たな森林管理システムの推進のために鳥取県が設立した組織です。
令和2年の6月に組織がつくられ、7月にその本部が鳥取県森林組合連合会の中に開所されました。組織の構造としても鳥取県森林組合連合会の1部門的な扱いです。財源として新たな森林管理システムの推進に参加する市町がお金を出し合い、そこに県が上乗せした資金によって運営されています。僕はその中で鳥取県森林組合連合会の会長が兼任するセンター長の下で推進員として活動しています。
推進員は鳥取県内で東中西に一人ずつの計3名がいます。推進員という肩書ですが新たな森林管理システム推進のためのコーディネーターと言っても差し支えはないと思っています。なぜなら、僕たちは参加市町とそこに関わる林業事業体の間に入りその意見や事業の調整を行っているからです。
具体的な活動を教えてください。
近年、ニュースでも見るように異常気象が増えてきて、それに伴う森林の被害も増えてきています。そこに国としても危機感があり、そういった災害を未然に防ぐことも目的の一つに生まれたのが「新たな森林管理システム」です。
「新たな森林管理システム」は森林のこれからの仕組みの話です。出来上がっているシステムと言うよりは、現在進行形でシステムづくりの議論がされている話です。そして、システムを考えるためには森林の現状把握が必要でした。
例えば、旅行のプランを考えるときを想像して欲しいんですが、どこにどんなお店があるか?どこに泊まれるか?移動時間はどれだけ必要か?と色んな情報の入った「使える地図」を基に考えますよね。この「使える地図」の森林版を作るのが僕の仕事です。
森林の「使える地図」づくりはGIS(Geographic Information System:地理情報システム)を使って行いました。GISは簡単に言うと地図を作ったり作った地図に情報を入れたり出来るソフトです。
僕のつくった森林の「使える地図」には、どこで災害が起きやすいか、どこが林業に適しているのかなどを視覚的に見ることが出来るものです。少なくとも鳥取県内では実用レベルで使われていないものでした。この「使える地図」が出来たことで、それぞれの主観的な想いでされていた議論が、客観的な事実に基づいた議論に変わりました。これはいわゆる「見える化」の効力ですよね。
「見える化」した後の議論の中で、じゃあ具体的にどれぐらいの面積をやる必要があるのか?といった議論になりました。そこで「数字化」の必要が生まれました。GISを使えば、地図の情報に基づく数字を出すことは簡単に出来ます。それをわざわざ大層に「数字化」と言っているのには訳があります。
「数字化」はGISを基にしたExcelへの落とし込みです。要はGISという高度な情報処理から単純な表計算に落とし込こんだだけです。これはGISが専門的な慣れが必要で、関係者たちとの議論を進めるためには皆が使える情報にする必要があったからです。しかし、言葉ほど単純ではありません。
この肝は指標の簡略化にあります。多すぎる情報はその情報の使い方を知らなければ参考にならず、さらに議論をしやすくするためには指標を単純化する必要があります。市町や林業事業体とその指標を何にするかという議論や試作を重ねに重ね、要整備検討要素という一つの指標をつくり、その指標をもとに比較検討できる表を開発したのが「数字化」です。
そして、その「数字化」によって出てきた数字をもとにして具体的な事業計画に落とし込む仕組み作りが「計画化」になります。これも話すと長いので、そろそろ省きましょう。笑
大体どんなことをやっているか伝わりましたか?笑
ちなみに、東中西で推進員のやっていることは大きく異なります。というのは新しい仕組みの推進という未開の地で、それぞれの強みを活かして戦っているからです。東の推進員は森林組合の元専務なので、森林の実情や現場に強く、それを活かして現地の確認や具体的な計画の作成を行っています。中部の推進員は元副町長なので、行政の仕組みに強く、それを活かして、制度推進に必要な手続きなどを進める仕組みを作っています。
なぜ平賀さんは現在この仕事をされているんですか?
それは、これもまた話すと長いので端的にお話しすると、直接的なキッカケは、鳥取県森林組合連合会の会長にヘッドハンティングされたからということになります。
僕はこれまで、「地域をよりよく」を胸に活動してきました。僕のキーワードは「地域」と「環境」があります。なので大学でも全国でほぼ唯一その両方を学科の名前に関する鳥取大学地域学部地域環境学科に進学しました。
大学卒業後は、多くの人たちに活動のチャンスをいただき、八頭町を中心に、地域と環境の現場でいろいろなことに取り組んできました。
今の森林に関することでも、制度の推進を通じ、森林環境の現状、林業とその事業体の実情、そこに関わる組織や人々の努力、そして課題とチャンス、と本当に多くのことを学ばせていただいています。
キッカケは会長からのお誘いですが、仕事をしている動機は、地域のため、環境のため、その自分の勉強のためですね。
これからの展望をお聞きしたいです。
まずセンターとしての今後ですが、最初の方でもお話ししたように、「新たな森林管理システム」については議論されている最中です。そのためそれを推進するセンターの在り方もまだ議論の途中です。議論の中では、国から降りてきた「新たな森林管理システム」ではなく、地域とその環境に基づいた「鳥取県版森林管理システム」を提案しています。
センターの在り方については、役場が持てない専門性や技術の集約を図る機関としてであったり、林業だけではない森林の空間活用なども進めるNPOであったり、組織としての方向性も多岐に広がっています。これからどうと言うのを明言することは難しいですね。難しいことだらけで申し訳ないです。
ただ、本当の仕組みづくりのためには、行政も事業体も、さらに言えば地域住民も巻き込んで地域の環境を考えていく必要があります。そのためには今のセンターで出来ることも出来ないことも見えてきました。
僕自身は、これまでもこれからも「地域をよりよく」するため、環境や一次産業をフィールドに、人を助け人に助けられ、やっていくんだと思います。笑
仕事は西部で週末は東部に帰っていろいろしているのですが、そもそも地域で活動するきっかけとなった「船岡農場」が中心となって八頭町で行っている「ふなおか共生の里づくり」が、僕の思う地域と環境の在り方として大事だというところに帰ってきているので、それをもっと進めたいし、その取り組みをもっと行っていく予定です。
プロフィール
氏名:平賀謙太
経歴:鳥取大学地域学部を卒業後、八頭町にて農業支援の「農拡機動隊」を始める。その後、「地域おこし協力隊」として農業の支援、そして集落での活動、地域の拠点づくりを行う。協力隊卒業後は、この資源循環・人口循環・経済循環の環(わ)を廻すことを目指し、八頭町を活動拠点とする「一般社団法人ワノクニ」を立ち上げ、空き家の利活用・移住促進・地域活性をテーマに様々な活動を行う。そして現在は「新たな森林管理システム推進センター」の推進員を務める。
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