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コロナ時代の教育現場〜アフターコロナに残すべきものとは?〜|大山力也

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 こんにちは、鳥取城北高校地域コーディネーターの大山です。

 アジアに端を発する新型コロナウイルスの拡大が止まらない。日本の学校業界はかつてないほどの荒波に襲われている。生徒やその先にいる人々の健康に配慮して全国的に休校状態にある2020年5月現在であるが、オンライン授業あるいはサポートを実施できる学校とそうでない学校との間で明暗が分かれ始めている

 ここまでの経緯をまとめると以下のようになる。

 2月27日

安倍首相、全国の小中高に3月2日〜春休みまでの休校を要請

 4月7日

コロナ感染拡大により一部地域に緊急事態宣言を発令

 4月16日

全国的な波及により緊急事態宣言を全国レベルに拡大

 4月30日

感染の勢いが止まらずG W明け5月6日以降も緊急事態宣言を延長

 鳥取城北高校では県内でも先駆けて4月9日にはオンライン授業に踏み切った。県内最大規模である1100人を擁する巨体からは想像もできないスピードでP D C Aサイクルを回し続けている

 現在も鳥取城北高校は様々なノウハウを共有しながらコロナ時代の教育のあり方を探り続けている。そのノウハウは、まだ体勢を整えることが出来ていない学校も多い中でこの先を切り開いていくための一助になり得ると考えている。

 今回は、鳥取城北高校のコロナ対策、オンライン授業体制を構築した立役者でもある4人の中堅エース教員へのインタビューを通して、これからのアフターコロナ時代の教育のあり方を考えていきたい。

進路指導部長 山根正樹先生

自粛メモ:コロナ自粛中は家のそばの山で竹の子ほりがマイブーム。ナス、トマト、キュウリ、とうもろこし、オクラなど家庭菜園の収穫をイノシシと先を争っている。

「今、求められる組織としてのマインドセット」

Q.進路指導部長の立場から、コロナが学校業界にもたらしている影響について教えてください。

山根:今年はなんと言っても新しい入試制度になって初めての年。高校各校がためてきたノウハウが通用しなくなる年でもあり、特に学校業界にとっては敏感にならざるを得ない年だった。その年に今回の新型コロナウイルスショックが当たってしまった。

 新入試制度に向けて何を学べばいいのか?各大学のリスニング問題の比率がどう違うのか?などと言った細かな情報から、進路情報、学力の保障に至るまで、生徒はとても不安に感じているだろう

 コロナ問題で一番のポイントは生徒と学校が離れる中で、学校がどう生徒とコンタクトをとり情報を伝えるのか?であると考える。

 通常であれば、大学入試の募集要項は5-6月に出るものであり、そうした情報は生徒自身では手に入れづらい。総合選抜型入試(昨年までのA O入試にあたるもの)は早い私立大学だと8月には始まり、学校推薦型入試もそれに続く。

 今年はコロナの影響で、オープンキャンパスの参加可否、入試時期の後ろ倒しや、オンライン形式での面接の実施なども懸念されるが、見通しは立っていない。本校としては、時期を見てオンラインツールを用いての個別大学との連携を図っていきたいと考えている。

 3月にはカンボジアにあるキリロム工科大学と教員向けの研修なども実施しており、今後はこうした取り組みを生徒向けにも実施していくことを視野に入れている。保護者からの進路に対する不安の声も聞いており、生徒のみならず保護者とのオンライン面談の必要性なども感じている。

Q.オンライン授業への移行に足踏みする学校も多い中で、いち早く導入できた要因は何であると考えますか?

山根:一番大事なのは“組織”として動けるかどうか。そして次にその組織が持つ“マインドセット”がどのようになっているかであると考えている。

 I C Tに精通している教員が少なく、特定の教員だけが対応しているケースは多い。鳥取城北高校では幸いI C Tに長けた教員が複数いて、そこが中心となり全教職員向けに早期にI C T研修を行うなど“組織”として一度に動けたことが何より強かった。

 そして、何よりもその原動力としての“マインドセット”だが、今回のオンライン授業への移行がトップダウン型ではなくボトムアップ型であった。

 鳥取城北高校は数年前に経営危機に陥り、ボトムアップ型の改革で生徒数のV字回復を遂げた学校であり、その時の経験もあってか、上層部にどんなことでも“やる”前提、スタンスがあるのも心強い。

※鳥取城北高校についてはこちらの過去記事参照

 20世紀初頭に流行し、世界各国に極めて多くの死者を出したスペイン風邪は中世を終わらせたとも言われる。コレラやペストなどパンデミックが起きた際には“非常時が常時になる”ことがある。それこそアフターコロナの世界は、インターネット高校であるN高のようなものが当たり前の世の中になっているかもしれない。

 リアルの学校においても、デジタルアプリが当たり前になることでGWや夏休みなどわざわざ生徒も教員も学校に出てこなくても講座が出来てしまうかもしれない。これは教員の働き方改革の一環であるとポジティブに捉えられている可能性だってある。

 学校の当たり前が変わっていくことを「コロナの“余波”」としてネガティブに捉えるのか、あるいは現実を受け止めつつも「コロナの“余韻”」としてポジティブに捉えていくのか。アフターコロナの世界は組織の“マインドセット”のあり方が将来を大きく左右することになるだろう。

教育プロジェクト部長(ICT推進主任) 田中基洋先生

自粛メモ:仕事場と自宅の往復だと言いつつも、スーパーで普段よりもちょっといい食材を仕入れて料理をしたりして楽しんでいる。最近は2日間しっかりと煮込んだもつ煮が傑作だったそう。

「ICTは文房具」

Q .鳥取城北高校がI C Tを推進してきた経緯、ストーリーを教えてください。

田中基洋:鳥取城北高校も新校舎ができる3年前までは、ほぼアナログだった。しかし、新校舎に変わってからは電子黒板機能付きのプロジェクターやスクリーン機能を持った黒板、全教室にWi-Fiが完備されるなど、ハードの部分が一気に整った。

 その上で、教材の共有や配信、課題の回収をする時に役立つロイロノートというアプリ、主要教科の授業がオンラインで見放題のスタディサプリなど個別のツールは少しずつ導入していった。

 現在導入しているGoogle for Education(Googleが提供するツールを学校教育向けにまとめたもの)などはFacebookや教育関係の事業者から情報をキャッチしたものだ。他校や先進事例の様子は常に注意を向けている。

Q .なぜ全国的にも早い対応が出来たのでしょうか?

田中基洋:ひとつには、県外の先進校の視察で具体的なツールの導入事例を事前に見てイメージをはっきり描けていたのが大きかった。その時の印象として強く残っているのは、I C Tは文房具の一つとして存在していたこと。

 近畿大学附属高校の先生に伺った話だが、日本では最先端の取り組みであっても世界と比べればまだまだ立ち遅れているという。“世界の情報”をどのようにキャッチしていくかは今後の課題だと思っている。

 現在、鳥取城北高校には120台のChromebook(Google発のタブレットの一種)が導入されているが、これも3年前に県主催の研修ツアーで香港に視察に行き、中高に導入されていたのを見たことから始まっている。

Q .コロナに際してのオンライン授業体制への移行はどのように展開したのでしょうか?

田中基洋:まず第一に、3月初めの休校時には急だったこともあり紙媒体での課題+テストという形を取ったが、生徒の学習の状況把握も出来ずこれはあまりいい手では無かった。その時の反省があって、4月以降にも休校が延長された時の対応を今回の4人で話していたところだった。

 案の定、4月2日に休校が決まり、4月3日の職員会はキャンセルして、I C Tに長けた教員が集まり特別会議を設けた。

 4月4日は土曜であったが、主軸となった4人の教員でオンライン授業を全校で実施するための研修内容をオンライン会議で組み立てた。

 4月6日の月曜日には午前中にはロイロノートやZoom(オンラインコミュニケーションツールで現在はGoogleのMeet機能を活用中)、Google Classroom(教員と生徒がつながるためのプラットフォーム)の研修を行い、午後には教科ごとの実戦演習の時間に充てた。

 4月7日には新3年生、4月8日には新2年生を登校させ、各種アプリのインストールやログイン作業を行なった。

 翌日の4月9日〜16日まで鳥取城北高校としては初めてのオンライン授業を実施することにつながる。(第1フェーズ)

 この後にコロナによる緊急事態宣言が一部地域で発令された。それまで手を差し伸べられていなかった新1年生を4月20日の縮小版入学式で迎え入れた。4月21日には新1年生にアプリのインストール、ログイン作業を行い、4月22日には各学年の調整日を設けた。

 その間に緊急事態宣言は全国に拡大され、鳥取県は27日以降の臨時休校の方針を打ち出したが、鳥取城北高校では万全の状態で4月23日より休校モードに入った。(第2フェーズ)

Q .生徒はスマホなどで授業を受けているわけですが、スマホに対する印象は変わったのではないでしょうか?

田中基洋:そうですね、生徒のみならず、保護者にとってもスマホの印象が大きく変わったのではないかと。スマホといえばカメラやゲームなどの遊び、SNSに使うツールという認識でしたでしょうから。

 スマホは教育のツールとしても使えるものだという認識に変わったのではないかと思う。コロナの激動の中で、PCやChromebook、様々なI C Tを自分で使えるようにならねばならないと生徒が身をもって体感し、気づくきっかけになったという意味ではものすごく良い経験になったのではないかと考えている。

情報企画戦略室 田中光一先生

自粛メモ:趣味の魚料理がこじれ始めている。捌きたいのはこれから旬の高級魚イサキ。最近作ったのは料理は真鯛の刺身、焼き魚、唐揚げ、鯛飯のフルコースセット。最近もらったノドグロ40匹を一夜で捌いた。

「“主体的に学習する姿勢”の育て方」

Q .4月9日〜16日のオンライン授業の前半戦、そして4月23日以降のオンライン授業の後半戦では内容にどのような違いがありますか?

田中光一:オンライン授業の前半戦では、思っていたよりも導入に際しての抵抗感もなくスムーズに行うことができました。理由として、教員同士がわからないことは調べ、助け合ってなんとかしようという雰囲気があったからかなと思う。

 しかし、全国的にオンラインアクセスが集中してしまい、通信障害に見舞われるシーンもあった。ある意味ではインターネットサーバーの限界を感じた。また、オンラインでいつも通りの授業をしていたが、教員の準備の負担や、授業を受ける生徒自身も目が疲れるなどの負荷がかかっていることに気づいた。

 これらの気付きから、オンライン授業の後半戦はいわゆるLIVE授業からは離れていくことになる。

 後半戦では、I C Tをフル活用して“先生が教えるスタイル”から“生徒が自分で学ぶスタイル”へ移行した。いわばTeachingからCoachingへの方向転換である。具体的には、スタディサプリやA I学習ツールの導入、オンライン面談体制を充実させることで生徒が自分のペースで勉強することを促し、どこまで出来ているかをテクノロジーの力で「見える化」させた

 コロナ時代が教育現場に与えた命題は“学校から離れて如何に勉強するか?”であり、アフターコロナを見据えて“主体的に学習する姿勢”を育てたいと考えている。もちろん、「先生の授業を リアルで受けたい」という声も出てきている。

 オンラインだけで全てが完結するわけではなく、リアルでの学校教育の需要は確実にあると考えている。オンラインでできること、オンラインでしかできないこと、リアルでできること、リアルでしかできないこと、これらをコロナを通してきちんと整理することでアフターコロナの教育の世界が形作られるだろう。

Q .“主体的に学習する姿勢”を育むためには、具体的にどのようにすれば良いでしょうか?

田中光一:基本的には指導者に求められるスタンスが3つあると考えている。

  1. “見守る・支える”
  2. “任せる”
  3. “気づかせる”

の3つである。

 何かに取り組む様子を見ていてくれる人がいる。支えてくれる人がいるということは「安心・安全」を感じることができることにつながる。人から任される、信頼されるということを通して「自信・責任」が生まれる。人から言われるのではなく自ら気づくきっかけを与えることで「自ら考えて行動する機会」を得ることができる。これらは“主体的に学習する姿勢”を育むためには必須のものであると考えている。

 その上で、生徒には自分の知っている世界にとどまらずに視野を広げて挑戦をしていって欲しい。私自身も今回のオンライン授業導入に向けてFacebookなどSNSを介した情報収集やオンライン学習会などを通して先駆者とつながり、今回の取り組みを支えることにつながった。

 自分は知らないから、できないからと言わずに、ものごとを自分で確かめ、「らしい」で片付けないことを意識してみてほしい。

志学コース主任 田中将省先生

自粛メモ:趣味のランニングを最近はフェイスカバー(マスクみたいなもの)を着けて行っている。とても息苦しいが、低酸素運動だと思えば燃えてくるとのこと。

「アフターコロナの授業デザイン」

Q .アフターコロナにおける授業デザインについて教えてください。

田中将省:オンライン授業のノウハウが、“対面の代替”ではなく“コロナ収束後も活きる”ようにする意識が大事であると考えている。リアルの授業よりもオンライン授業の方が優れているという見方も実はできる。例えば、オンライン授業のスタイルは「同期型」と「非同期型」に大別することができる

 「同期型」は、オンライン上で一斉授業を展開する形である。リアルタイムで共有するため、人のペースで展開していくことになる。GoogleのMeet機能やzoomなどで顔を合わせて行うものだ。相手の様子を知り、信頼関係を育むためには欠かせない手法である。

 「非同期型」は動画教材や配信課題などを与えて自分のペースで学習を行わせる形である。個別に対応することも可能であり、動画ならつまずいた時に何度もその場所を繰り返し再生することができるなどの点が魅力的である。

 それぞれに良いところがあり、どちらかに寄るというよりはハイブリットに掛け合わせていくことが求められる。どちらかに寄ってしまっては生徒、教員ともに辛くなる。

 一方で、そうした人間的な反応を時に表情を見ながら手法を使い分けるなど、教育的な判断をするところにこそ教員の力量が求められる。ある意味、リアルの授業では、なあなあになりがちであった授業デザインの視点が、オンライン授業には必要とされる。

 授業のスタートは「同期型」で挨拶や目標の共有などを行い、内容の簡単なレクチャーや指示出しを終えた後は順次「非同期型」で作業をさせる。そして、例えばGoogle Form などのアンケート機能などを配信、活用してその日のリフレクションを回収する。このような形で始まりから終わりまできちんとデザインされた授業づくりをすることでリアルの授業よりも充実した内容にできる可能性もある

 “社会の変化に合わせてしなやかに学び続けられる人を育てる”ことを日頃から意識しているが、教員自身がこの状況に対してしなやかに対応できるようにしていきたいと考えている。

インタビューを終えて

 いかがだっただろうか。今回、4人の教員にそれぞれの立場からコロナ時代の教育について語ってもらったわけだが、これを書いている現在も刻一刻とコロナをめぐる情勢は変わり続けている。

 緊急事態宣言解除後も、また第二波、第三波と全国的な自粛モードは訪れる可能性は十分にある。しかし、人はそうした事態に対して“しなやか”に対応することができ、その度に今までにはなかった成長を遂げることができる

 新型コロナウイルスは、グローバル社会という“世界のつながり”を介して蔓延した。しかしまた、新型コロナウイルスの存在や動向、対応策、心構え、時に悲しみを、時に勇気づけをもたらす物語の数々なども“世界のつながり”を介して共有することができた。

 物理的に会えない人も画面を通じて会うことができた。必要に迫られて、今までできないと思っていたことが次々とできるようになった。止まっているようで、我々は着実に前に進んでいる

 人が家に籠ることで、自然環境が一時的に爆発的に改善し、想像以上の治癒力を自然が持っていることに気づいた。仕事をする上で、今まで当たり前だと思っていた方法だけが解決策ではなかったことに我々は気づいた。生活の中で、人として本当に大切だった要素にいくつも気づくことができた。何も知らなかったようで、我々は着実に何かを学んでいる

 コロナ以前と以後では世界の見え方は大きく変わる。一人一人の感じ方、見えている景色も変わる。それらをもう一度、共有していかなければならない。もう一度、世界をつなぎなおしていかなければならない。教育は、まさにその役割を担う。未来に対してポジティブに、いま、できることを少しずつ学んでは増やし、カタチにする。この文章も、誰かの未来にとってポジティブなきっかけになることを願っている。

鳥取城北高校の関連リンク

プロフィール

氏名:大山力也

所属:鳥取城北高校教員/地域コーディネーター

経歴:神奈川県横浜市出身。幼少期6年間をブラジルで過ごす。早稲田大学院教職研究科、早稲田大学教育学部、早稲田大学高等学院卒。山梨県で私立高校の非常勤講師を経験後、2017年より鳥取城北高校教員として鳥取県に移住。2019年に日本財団地域コーディネーターを兼任。地域デザイン部顧問、総合探究主任として「学校と社会をつなげる」ことをテーマに日々活動中。何かある場合はF Bで気軽にご連絡ください!

連絡先:rikirikiring@gmail.com

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