地域のプレイヤー

私立学校が切り拓く地方の未来 〜鳥取城北高校から始まる人口減少社会への挑戦〜

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地方の未来に学校が出来る事

鳥取城北高校 大山力也先生

 初めまして。鳥取城北高校教員と日本財団地域コーディネーターをしております、大山力也と申します。毎年、鳥取県の人口は(令和元年12月時点で全55万人)約4000人のペースで減っていることをご存知ですか。

 2020年以降、日本は全国的に人口が加速度的に減るフェーズに入るといわれています。少子高齢化に始まる生産力の低下は待ったなしの状況であり、特に地方は若年層の流出がそれに拍車をかけています。

私自身はこの問題へアプローチする鍵は「教育」にあると考えています。

 今回はそうした地方の状況を念頭に置きつつ、本校における改革を推進している2名の教員へのインタビューも織り交ぜながら「地方の未来に学校が出来る事」を探って行きます。

鳥取城北高校について

 鳥取城北高校は、鳥取駅や県庁、市役所などにも程近い鳥取市の中心市街地にあり、鳥取砂丘など豊かな自然と観光地ならではの雰囲気を感じることができる環境にある。

 卒業生には、阪神タイガースの能見篤史投手、大相撲の逸ノ城関や石浦関、安田大サーカス団長の安田裕己さんなどスポーツ、文化を問わず各方面で活躍する著名人を輩出している。

 また、大相撲第69代横綱 白鵬関がアンバサダーに、auのCM 三太郎シリーズなど様々なヒットCMを手掛け、カンヌ国際映画祭において最高賞のパルムドールを受賞した『万引き家族』の製作に携わるなど活躍中のAOI TYO Holdings(株)COOの中江康人氏がスーパーバイザーに就任し、様々な助言やサポートなどで本校教育をバックアップしている。

 しかし、人口減少や少子高齢化などの影響もあり、5年前には入学者数の激減という事態に見舞われた。

 『アクティブラーニング』を中心とする授業改革やICTの活用、無料の校内塾『城北栄光塾・研志塾』、コース改編など、様々な取り組みを実行したことが進学・就職実績の向上と地域の方々からの評価につながり、230名にまで落ち込んだ入学生も年々増加し、今年度も県内最多の353名を迎え、総勢1058名の県内随一の大規模校となった。

 また、昨年4月には新校舎教室棟とアリーナ棟が完成し、教室棟には、より快適な教育環境を実現するため、医療機関等で導入が進められている、外気を除塵・除菌し調湿を行う最新の空調システム『モイストプロセッサー』を全国の学校施設として初めて導入し、さらに今年度は、8月に全面人工芝の全天候型グランド、来年2月には特別教室棟が完成し、来年度には約400名収容の多目的ホール棟も完成する予定で、本校で学ぶ生徒たちにとって最高の環境を整えるための工事が進められている。

 生徒一人ひとりの『一生に一度しかない三年間』を最高の三年間にするため、生徒に寄り添い、チャレンジを続けている。

 最近の取り組みの中では、「城北インターンシッププロジェクト」が話題を呼んでいる。鳥取県では原則アルバイトは禁止という通例があるが、所得水準が低く、大学進学したくてもできない保護者や生徒の様子を見かねて、教育的な理念のもと鳥取各地の事業所と協定を結んだ上で事実上のアルバイト解禁を行ったものだ。

「城北インターンシッププロジェクト」のモデル図

 老舗や大手チェーンの飲食店を始めとして、山陰初開催の「チームラボ★学ぶ!未来の遊園地」との共同インターンシップに42名の生徒を送り出し、同じく山陰初の3人制プロバスケットボールチーム「鳥取Blue Birds」でのスタートアップ段階でのインターンシップにも約30名の生徒を送り出すなど、家計を助けるだけでなく地域の中で高校生が活躍する場を次々と創りだすことにつながっている。これらの取り組みは各種メディアにも取り上げられている。

「鳥取Blue Birds」でのインターンシップ後の写真

石川晴久副校長インタビュー
『出口でなく、間口の広さと中身こそ重要』

鳥取城北高校 石川晴久副校長

Q .鳥取城北高校は現在どのような位置づけにある高校なのか教えてください。

石川:鳥取県のみならず、多くの学校では進学実績を気にする傾向がある。もちろん学校である以上大事なことには変わりないが、一流大学にいければそれで良いかというとそうではなく、私はこの道で勝負をするというものを持てるか、多様な人が暮らす世の中でも生きていける人としての幅を持てるかが一番大事なこと。

 鳥取では伝統や権威にあやかる風潮がまだあるが、これからの時代を生き抜くスキルを身につけられるか、そういったことを学ぶための“一生に一度しかない三年間”になっているのかといった学校の中身をしっかり見極めることが求められているし、鳥取城北高校はそういう学校でありたいと考えている。

 本校はスポーツで勝負する生徒、勉強あるいは行動力で勝負する生徒まで多様な生徒を抱えている。幅が広く、規模も大きいがゆえに多様な教育機会も用意することが求められる。これらの仕掛けが人口減少の時代にあっても人が集まる魅力的な学校づくりにつながっていくと考えている。

Q.経済的な問題として、特に鳥取城北高校に関係するお話は何かありますか?

石川:2020年4月からは就学支援金制度が改定され、就学支援金の額が大幅に増額される。本校においても、ご家庭ごとの所得等にもよるが、最大で授業料が月々9000円程度のご負担で済むようになり、公立高校と同じような費用水準での教育サービスの提供が可能になっている。

 平均所得が全国に比して圧倒的に低い鳥取県であるが、今回の改定は所得の問題から教育機会を狭められていた方にも「私立学校」という選択が公立校並みに選びやすくなる時代がやってきたと言える。

Q .鳥取県では若年層の流出、特に優秀層が戻ってこないという問題がありますが、そのあたりについてどのように考えていますか?

石川:やはり若年層にとっても「所得」「職種」「仕事の自由度」といった点で鳥取と比較したときに都会がどうしても魅力的に見えてしまう部分はある。一方で、そういった仕事における条件面だけでなく、「住み心地」「子どもの育てやすさ」といった生活面、「人としてのあり方」「人としての幸せ」といったライフスタイルの域まで広い視野で捉えると見え方は大きく変わる。

 例えば、「人としての欲求が満たされやすい環境」という意味では鳥取県は東京などの都会よりも優位にある。人には承認欲求があり、誰かの為に活動することや、社会的な活躍を通して注目されることで「生きがい」を感じることができる。学校で言えば、学校数も少ないため他県よりも野球で甲子園に行くチャンスに恵まれている、部活動で全国大会に進める確率が高いということが実は魅力としてある。

 ないものも多く、多くのものが求められている環境だからこそ自分が進みたい道、実現したいことを形にすることができる。いわば「鳥取だからこそできる」ことがある。これはこれから進学や就職を考える若年層にとっても知っておいて欲しいことだ。

Q .「生きがい」を感じやすい環境というのはどのようにPRしたら良いでしょうか?

石川:もちろん鳥取県に今いる人には改めてP Rをしていかねばならない。進学で出て行った子が鳥取は良いよと外の人に言えることも大事だ。加えて、より若年層を増やしていく為には、今まで鳥取を知らなかった人を呼び込む姿勢も求められる。ある程度の時間を過ごさねばそうしたライフスタイルの中にあるような魅力には気付きづらい。

 若者を呼び込む手立ては観光などもあるが、どうせならば若いうちに鳥取で育つような経験をしてみれば良い。具体的には、鳥取城北高校を始めとした機動力のある私立高校が一斉に「教育寮」を整備し、県外からも生徒を集めるような動きをすればそうしたP Rにもつながるだろう。挑戦しやすい環境であることを分かりやすく目に見える形にする必要はあるが、人を集める機能は実は学校にもあるのではないか。

志学コース主任、田中将省先生インタビュー
『今後の戦略について』

鳥取城北高校 田中将省先生

Q .志学コース主任も務めている中で現在行っている取り組みについて教えてください。

田中:私は今ひとつのコースを束ねる立場にあるわけですが、Volantility(不安定さ)、Uncertainty(不確定さ)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(曖昧さ)が高まっているといわれるV U C A時代の中で、しなやかに学び続けられる生徒をどのように育てていくのかを意識してカリキュラム作りを進めています。

 特に大学進学についても総合的な探究の時間を始めとした5教科以外の教科についても重視している。今考えているのは一年生の時から3つの視点で学びができたら良いかなと考えている。1つ目は「グローバル」視点で国際的な情勢を含めて幅広い視野で学んで欲しい。2つ目は「テクノロジー」という視点で、IoTであったりA Iであったりブラックボックス化しているものに対してそうじゃないんだよということに早くから気づいてほしい。3つ目が「ビジネス」という視点で、ないものは創りだすという発想を持たせてあげたい。

 また、部活動においてもファ部という部活を通して3Dプリンターやレーザー加工機等を使い自分で欲しいものを創りだす力を身につけさせている。今の時代、あるものから選ぶばかりで、ものに自分たちを合わせてしまっている。自分たちにものを合わせていける発想を持つことが大事なのではないかと考えている。

Q .そうした学びを具体的にどう社会へとつなげていきますか?

田中:しなやかに学び続けられるような人財が育ったとして、そういう子たちが県外に出た時に「いつか帰ってくるのか」という問題はある。高校がある種のファームになってしまって育てた子たちを届けて終わりという形になりがちではある。その時に重要なのは「地域」というキーワード。

 そこに関わっていく中で愛着が持てるかどうか。地域の課題に直接触れる中で当事者意識が芽生え、この地域を何とかしたいと思えるのではないか。新学習指導要領にも「社会に開かれた教育課程」をつくっていくことが謳われていて、学校外の方の協力も得ていくという意味で教員サイドにもコーディネートの能力が求められるようになってきている。

Q .田中主任は一緒に働いていると専門は物理だけれども経済や投資の勉強、副業もできそうなほど教員+αのスキル開発をされているなと感じる時があるのですが、どういうことでしょう?

田中:ファ部につながるようなIoTやA Iの勉強、実社会で生きていくのに必要な投資や保険の知識などに関する勉強は積極的にするようにしている。他に具体的に言うと、AdobeのPhotoshopやIllustratorで画像編集やロゴ作成をできるようにし、Premierで動画編集もかじりました。

 プログラミングだとJavaなども活動のために学びました。鳥取の経済の話をすると、企業誘致なども力を入れているものの限界もあるのかと思っていて、すでにある鳥取の資源を有効活用してビジネスチャンスを見出し、あるものを引っ張ってくるだけでなく、自分で創りだす視点を持つことが大事なのではないかと考えている。

 若いうちから「起業」の仕方なども学んでおいた方がいい気がしている。話を戻すと、教員はただ教員をやっているだけでなく常に学び続ける必要があると思うが、こうしたビジネスのことに関してなどはどうしても生徒に教えるに足りない部分が出てくる。そうした時に外部の人をうまくつなげてコーディネートしていくことが求められている。

Q .最後にこれからの野望を聞かせてください。

田中:一つは自分の専門分野である物理に関して、もっとアクティブに生徒が学べるような仕組み、仕掛け作りをしていきたい。もう一つは、鳥取城北高校の生徒が地域の人に期待されるような、鳥取城北高校を出たら何かが起こるぞと思われるような広い意味での教育システムをつくっていきたい。

 一般的な進学校ではなく、むしろ進学校というイメージを追いかけるようなことはしたくない。違うモノサシの中で生きていけるような学校にしたい。多様な価値観に溢れる世の中で自らモノサシをつくり出していけるような人を育てたい。逆にそうである以上、自分たち教員自身がそういう存在であり続けなければならない。我々が新しい価値観をつくり出していく立場であればこそ、そこで育つ子たちもまたそれをみて育つと考えている。

持続可能なだけでなく発展的な鳥取の未来の為に

 さて、ここまでを振り返ってまとめてみよう。ここに至るまでに鳥取城北高校の概要、そこで働く2名の教員のインタビューを通して共通していた話題がある。鳥取における「人口減少」の問題である。鳥取城北高校も一時は生徒数の激減があったものの、様々な取り組みが評価され、現在ではV字回復を遂げて現在も生徒は増え続けている。

 私(大山)自身も鳥取城北高校の勢い、自由度の高い職場環境を求めて東京ベースの生活から一転、2017年4月に移住してきた身である。高校生がどのようなことを考え、どのように進路を選択するのかを日々見てきた中で、「学校外の社会との接触機会」が高校生の価値観や世界観に多大な影響を与える様子を目の当たりにしてきた。

 それは例えば城北インターンシップでの経験であったり、Startup Weekendという世界中で行われている起業体験イベントへの体験(2020年6月、鳥取城北高校内で開催予定)、鳥取城北高校が年間を通して連携しているN P O法人フリーザチルドレンジャパン企画のフィリピンスタディツアーでスラム街を訪問する経験であったりする。

 ポイントは「大人が必死に取り組む姿を見せること」「想定外の世界に出会わせること」、この2つであると考えている。日常では理解できないような雰囲気、状況に出会ってはじめて「なぜ」「どうして」と人は考え始める。「幸せって何だろう?」「なぜこんなに貧富の差があるの?」「なんで人は死ぬの?」「どうしたら目の前の人を救えるの?」、目の前に広がる景色や人との出会い、そこから迫ってくる問いがシンプルかつ強烈なほど人は考えずにはいられないし、学ばずにはいられない。

 スラム街で学校に行けずにゴミ拾いで一日数十円の生活をしている子どもたちを見て、ある高校生は今まで読みもしなかった本を毎日漁るように読むようになった。その姿は、明らかに「何かのために、誰かのために学ぶ姿」であった。今、日本に「自分の将来のため(自分のため)」だけでなく、「誰かのため、社会をより良くするため」に学ぼうとする人がどれだけいるだろうか?

 世界で起きている問題はおろか、自分の住んでいる地域で困っている他者を感じるリアリティを持つ機会がどれだけあるだろうか?高校生は多感な時期である。目に入る全てから純粋に学ぶ。「人口減少」という問題においても大人が受け身で「減るのはもうしょうがないよね」と思っていれば彼ら彼女らもそのように育つ。逆に、「だからこそやれることがある」「まだこんなこともできる」と考える大人に出会えればそのようにも育つ。

 鳥取は課題が多く、人は少ない、ゆえに人手も求められ挑戦しやすい環境であると私も考えている。加えて、想いある大人の数も多く、手を伸ばせばすぐ会える環境であることも魅力の一つである。学校はこれまで中の人で何でも解決しようとし過ぎたように思う。先の2人のインタビューにもあったが、これからは学校の中に想いある大人やその集合体である組織とうまく連携して「地域で子どもを育てる」ということに立ち返る必要があるのではないか。

 その中でこそ、子どもは社会のリアリティを感じることができる。様々な大人と出会うことで生き方のモデルも見つかる。取り組むべき課題も鮮明になる。少ない人、小さな組織だからこその意思決定の早さがある。県内で足りなければ県外からでも世界からでも助けを求めれば良い。多様性があるほど課題解決の可能性は高まる。

 「スピードは熱を生み、量は質を生む」。鳥取城北高校はまさにこの言葉通りの学校である。みんながみんな、課題解決をしたいわけではない、高校三年間で絶対何か成し遂げないといけないわけでもない。やりたくなった時にやれば良い。ただ、その三年間が終わった時に、そういえば鳥取でこんなことしたなぁ、あんな人もいたなぁ、この人にはお世話になったなぁと振り返りたくなるような印象的な経験、出会いを重ねた記憶が、地域への想いを呼び覚ますこともある。

 鳥取城北高校に関わる者一同、その時には、こう思ってくれたら嬉しく思う。あぁ、これが私にとっての「一生に一度しかない三年間」だったのかと。鳥取城北高校はその瞬間のために、鳥取の地でこれからも変わり続ける。

鳥取城北高校のHPとSNS

 

 

プロフィール

氏名:大山力也

所属:鳥取城北高校教員/日本財団地域コーディネーター

経歴:神奈川県横浜市出身。幼少期6年間をブラジルで過ごす。早稲田大学院教職研究科、早稲田大学教育学部、早稲田大学高等学院卒。山梨県で私立高校の非常勤講師を経験後、2017年より鳥取城北高校教員として鳥取県に移住。2019年に日本財団地域コーディネーターを兼任。地域デザイン部顧問、総合探究主任として「学校と社会をつなげる」ことをテーマに日々活動中。何かある場合はF Bで気軽にご連絡ください!

連絡先:rikirikiring@gmail.com

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