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大学進学率が低い鳥取県で生じている社会的損失とは?|木田悟史

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鳥取県の大学進学率と社会的損失

 鳥取県の大学進学率は2018年現在、43.8%となっており、一年間の高校卒業数4,945人の内、2,779人が大学に進学していない*1。この数字は改善の傾向が見られるものの、全国平均の54.7%を下回る状況だ。(ちなみに全国44位)

 一方で労働政策研究・研修機構が公表している「ユースフル労働統計2018」によると、60歳まで働いた場合、高卒と大学・大学院卒では、男女平均で生涯賃金に約65,000,000円もの開きがある。*2

 今後も上記の状況が続くと仮定した場合

A*B=2,779*65,000,000 = 180,600,000,000円(1,806億円)

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A(鳥取県の高校生の内、非大学進学者):2,779人 

B(生涯賃金の機会損失額):約65,000,000円

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 1,806億円もの社会的損失が発生していると考えられる。

 鳥取の場合、大学進学と同時に県外に出ていってしまう人が多い(約2割しか地元に残らない)ことを考えると、県内におけるこの損失額はさらに大きなものになると考えられる。

鳥取県の機会損失を機会に変えていくために

 それではこうした「機会損失」を「機会」に変えるために、一体どのような施策を打てばよいのだろうか。

 例えば経済的な理由により大学への進学を諦めざるを得ない家庭も鳥取では多いと聞く。こうした課題に対処するため、既にいくつかの自治体では奨学金制度が始まっているが、仮に現在、経済的な理由に進学を諦めてしまっている高校生の中から優秀な学生を200人選抜(県内高校生の約1%)し、200人分の奨学金をカバーするとした場合、約5億円の予算が必要と考えられる*3。

また、仮にタブレット端末を県内の高校生全員に配布したとしても、1.5億円)の予算となる*4。 Life is Tch等が提供するような外部のプログラミング素材を活用したとしても、数千万の予算規模で実施が可能だ。

 これらは、先ほど概算した社会的損失の金額に比べれば非常に軽微だということが分かる。

企業誘致だけでなく大型の人材育成を

 鳥取県では数年前から鳥取大学医学部を核として、医療関係の企業誘致を図り、ヘルスケア関係の産業クラスターを作ろうという試みがされてきた。

 方向性は間違っていなかったと思われるが、一つ大きな落とし穴があった。せっかく良い企業を誘致できても、そこで働くことのできる人材確保に困っている企業が多いというのだ。

 また県では、企業誘致の施策に約40億円の予算を計上しているが*5、企業誘致と並行して、人材の育成にもっと予算を振り向けるべきだろう。

 企業誘致施策に向けている予算の1割でもこのような人材の育成に向けることができれば、鳥取県の将来は大きく変わり得ると考える。

*1 : 平成30年度 学校基本調査結果(鳥取県)

*2 :「ユースフル労働統計2018」より抜粋

学校卒業後フルタイムの正社員を続けた場合の 60 歳までの生涯賃金(退職金を含めない)は(図 21-1)、男性は高校卒 2.1億、大学・大学院卒2.7 億円、女性は高校卒 1.5 億円、大学・大学院卒 2.2 億円となることから、高卒と大学・大学院卒では男女平均で6,500万円の開きがある。

*3 : 国公立大学の4年間の学費:2,500,000円*200人=500,000,000円(約5億円)

*4 : 10,000円×15,000人=150,000,000円

*5 : 鳥取県庁公式サイトより 2020年度鳥取県当初予算。
なお、2020年度予算の中で教育費の占める割合は18.5%となっている。

プロフィール

氏名:木田悟史(きだ さとし)

所属:日本財団 鳥取事務所所長
   ソーシャル・イノベーション本部国内事業開発チーム チームリーダー

経歴:慶応義塾大学 環境情報学部卒業後、日本財団入団。総務部や助成事業部門を経て、NPO向けのポータル・コミュニティサイト「通称『CANPAN』カンパン」の立上げに関わる。企業のCSR情報の調査や、東日本大震発災後、支援物資の調達や企業と連携した水産業の復興支援事業の立上げを担当。その後、情報システムや財団内の業務改善プロジェクトを経て今に至る。

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