地域のプレイヤー

『組織から個の時代へ』~ 一億総フリーランス社会 ~

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異常なる日常光景

 なぜ僕たちは毎朝、同じオフィスに通わなければいけないのか。それも鉄道の精密なダイヤのように定刻どおりに出勤する。固定化されたデスクと変わらない周囲の顔ぶれ。そしてランチも同じメンバーで食べ、溜飲を下げる。

 定型化された業務とタスク管理に明け暮れる毎日。なんとなく閉塞感が漂い、内向き思考に陥る。そんな日常は会社員であれば見慣れた光景であるが、これを既視感ではなく異常な日常として違和感を感じるセンスがないとちょっと危険だ。なぜって、そうしたステレオタイプの会社員生活は終焉を迎えるかもしれないから・・・

タニタインパクト!社員の個人事業主化

 働き方改革というと残業の削減や休暇取得の促進など「ワークライフバランス」に留意する施策が多いなか、健康機器メーカーのタニタが始めたのが「社員の個人事業主化」である。会社との雇用関係を終了したうえで、新たにタニタと個人が「業務委託契約」を締結するという画期的な制度である。

 今までの仕事を基本業務として個人に委託、個人は就業時間や場所に関係なく自由裁量で業務をしながら、タニタ以外の仕事も当然ながら受けれる。また会社員時代に享受されていた福利厚生や社会保険料なども考慮した「基本報酬」を設定することで、独立する個人を応援しながら会社とのエンゲージメントを継続させる、個人的にはとても魅力に映る制度である。

 真の働き方改革とは「タイムマネジメント」ではなく、働き方の多様性を認め、組織と個人がほどよい緊張感を保ちながら、主体性を持ってプロジェクト単位で目標へ向かって協働していくことにある。

起業でもなく、雇用でもない。第三の道をつくれ

 ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン「ライフシフト」でも言及されているように、人生100年時代においては約60年間の長期にわたって僕らは生産人口に組み込まれる。一つの職業や直線的なキャリア観だけでは変化の激しい時代を生き抜くことができないなか、起業するか、雇用されるかの二者択一ではない第三の選択肢が必要になってくる。

 そこでよりオルタナティブな道として「個人の法人化」というポジションを提言したい。自己の知識やスキル、人的ネットワークをアセットに複数の企業や組織と契約する「ポートフォリオワーカー」もその一つ。人間には複数の才能や表現力があるはずで、同時に複数の職やキャリアを走らせ、ある意味、労働のポートフォリオを戦略的に組み立てる。

 月曜は銀行員、火曜は大学で教え、水曜日はNPOで活動、木曜はコンサルタントで金曜から週末は都市部のプロジェクトに参加・・・そんな柔軟なワークスタイルの実現は個人のクリエィティビティも刺激し、当然ながら生産性を高めることができる。これは夢物語でもなんでもなく、実際に来春から僕が試そうと思っている働き方である。

おわりに

 20世紀型の工業化社会が終わり、知識や情報がエコノミーの血液として循環していく時代に、組織から個人へのシフトはもはや誰にも止めることはできない。VUCAと言われる予測不能で答えのないカオスな社会をポジティブに生きる原動力を個人が身につけることで、未来は可能性に満ちたものになる。

 僕たちはまだその入り口に立っているにすぎない。人口最小県の鳥取だからこそ、柔軟なワークスタイルと新たな職業観を提示し、複数の企業が個人をシェアし合うことが人口減少社会への解決策となることを期待したい。

 「組織から個の時代へ」

 引き続きこのテーマで様々なストーリーを織っていきたい。

参考書籍

「タニタの働き方革命」谷田千里、株式会社タニタ 日本経済新聞出版社(2019)

「LIFE SHIFT」リンダ・グラットン他 東洋経済新報社(2016)

プロフィール

氏名:安川 幸男

所属:株式会社鳥取銀行 地方創生アドバイザー
   一般社団法人ベンチャー型事業承継エヴァンジェリスト

経歴: 1970年東京生まれ。株式会社NTTデータ、NTT持株会社、株式会社NTTドコモなど、15年間NTTグループにてメディア・コンテンツ・教育分野の新規事業開発に従事。2016年鳥取へiターン移住し、鳥取県庁へ入庁。商工労働部にて起業家支援を推進後、鳥取銀行へ転職。現在は同行にて地方創生、ベンチャー型事業承継、大学とのイノベーション人材開発などに従事。産学官金すべてを経験したことを活かし、分野を越境したビジネスプロデュースが持ち味。

連絡先:y.yasukawa23@gmail.com

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