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「稼ぐまち」という視点から鳥取のことを考える

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人口減少社会でも、
経営者視点でまちを見直せば地方は再生する。

 「補助金頼りで利益を生まないスローガンだけの地方創生はもう終わった。小さくても確実に稼ぐ事業をつくることが希望となる」地域ビジネス・まちづくり業界の風雲児こと、木下斉氏の著書「稼ぐまちが地方を変える〜誰も言わなかった10の鉄則〜」を紹介し参考するとともに、これからの地方、鳥取について考えていく。

ポイントは「自立」

 木下斉氏は、高校生の頃から17年間まちづくり事業に携わり、これまでの経験から得た教訓を「誰も言わなかった10の鉄則」として本書に記している。高校生、大学生の頃の学生社長での挫折、アメリカ留学での経験、大学院での経験、今でも全国各地で地域活性ビジネスに携わる中での、試行錯誤と経験から得た、いきた知恵が詰まっている良書だ。

 地域ビジネスをやりたい、地域で起業したい、地域に根ざした仕事がしたいと思っている方は是非一読していただきたい。

 本書の中で木下氏が掲げるのは、「まちを一つの会社と見立てて運営する、経営し、利益をあげて再投資する」このスタイルを確立させるということだ。この考えに至るポリシーもまた明快で、「みんなの合意」や「政治」はそこにいらない。必要なのは、「マネジメント」と「やりきる覚悟」だとはっきり述べている。

 小さくても儲かる仕組みを考えて、心から信頼し合える仲間を2人か3人見つけてとにかくやる。3ヶ月単位で事業を見直す。うまくいかなければ柔軟に変えていき、それでもダメだったら時には見切りをつけて、また新しく始める。とにかく始めて動いていれば、協力者が増えていき、当人や地域が豊かになるだけでなく、行政ルールだって変わっていく。

 このように力強く、意見を述べられている。これだけ魂のこもった言葉を綴ることができるのは、木下氏がそれだけ血の滲むような努力、経験の過程で得たからだと私は思う。

 直接一度だけお会いした機会があるが、まっすぐな目とまっすぐな言葉を持った方だった。それだけ自信に溢れているように感じたし、それだけ自信が持てるのは自分で手と足を動かしてきた自負があるからだろうなと感じた。

 少し話がそれたが、本書での木下氏のメッセージを集約すると、「自立」という言葉だと思う。いろんな人の意見を聞き、交点を探すスタイルではなくて、自分たちで考えて、自分たちで投資して、自分たちで手足を動かして、自分たちが豊かになる。こういう自然な感覚を持つことが大切だということだ。

 「誰かがやってくれるだろう」という気持ちや補助金もそうだが、そういった気持ちが少しでもあるうちは、その地域が豊かになることはまずないというのは、ごもっともな意見だろう。 鳥取県はどうだろう?

経営視点と経済感覚が鍵となる

 ここで思考の枠を広げるために、日本の近代の歴史をざっくりと振り返り考察したい。

 日本は戦後、みるみると経済発展を遂げて、経済規模でアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国まで上り詰めた。要因はいくつか考えられ、諸説あるが、GDPをわかりやすく言えば、「国内で1年間に生産されたモノやサービスの価値の総和」であり、その算出の基本的な考え方としては、「最終消費支出+投資+政府支出+輸出−輸入」となる。実際にはもっと複雑な計算式だが、ここから言えることは、GDPという概念は人口と大きな相関関係にあるということだ。

 中国の近年の経済成長もまさしくこの式から説明することができる。また、「アメリカを沈みゆく大国」と評するアナリストもいるが、アメリカは3億人という世界第3位の人口を誇る国であり、モノやサービスを生産した際、すぐそこに巨大なマーケットを持っているという強みを持っているからだ。

 しかし、日本はその肝心な人口が減少傾向にある。総務省のデータによると、2030年には1億1,662万人(2010年より約30%減)、2060年には6,773万人となる見込みになっている。

 日本が高度経済成長を遂げることができたのは、人口が増加傾向にあり、すぐそこに巨大なマーケットがあり、モノやサービスが消費され、その消費が企業の収入になり、経済が活性化されていた。

 その他にも複数の好条件が重なり合って、高度経済成長がなされたわけだが、最大の要因となる人口が縮小傾向にあるということが最大な問題となる。

 また、ここでさらに問題となるのが、人口減少は地方から始まるということだ。これはもう起き始めていることなので説明は割愛する。今求められるのは、変革をもたらしたり、極限状態で選択を迫られる、経営者的人材だ。これはまさしく、木下氏の主張と重なる。

 言い換えるならば、自立して自分たちで稼ぐことのできる人たちだ。こうした経営視点と経済感覚を持つ人が今後の地方と日本の鍵を握ることになるだろう 。

小さく始めるということ

 最後に本書のもう一つ大事なポイントをご紹介したい。それはタイトルの通り、「小さく始める」ということ。

 なぜこれが大切なのか?ズバリ、始めていなければ何も語れないし、誰も信用しないし、誰もついてこないし、そもそも自分自身も何も変わらないという至極当たり前のことだ。

 老子が面白いことを言っていた。

 「崖を登ろうとするから落っこちるんだ。山というのは、斜めにぐるぐるとゆっくり登っていればいずれ頂上にたどり着く。」

老子

 本当にその通りかもしれない。できることから始めていくということが、鳥取、そしてあらゆる地域が変わっていくために必要な考えなのかもしれない。

最後に

 今回は、木下斉氏の著書「稼ぐまちが地方を変える〜誰も言わなかった10の鉄則〜」のポイントを紹介するとともに、これからの地方と日本の行く末について考察してきた。

 ポイントを最後に整理しておくと、まずは自立するというマインドを持つこと。自分たちで投資して、稼いで豊かになる。自分たちで決めて、決めたことをやり通すということ。これがまず一つになる。

 そして、決めたことの精度を高めるために、経営視点と経済感覚を養うことが重要になる。また、始める際には、小さく始めるということ。

 本書には、ここでは紹介しきれなかった鉄則やエピソードが紹介されている。地域に根ざした活動をしている方、志している方にぜひご一読していただきたい。

参考書籍

「稼ぐまちが地方を変える〜誰も言わなかった10の鉄則〜」

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