事例

智頭町金兒英夫新町長に聞く

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智頭町金兒英夫新町長に聞く

【旬刊政経レポートとのコラボ】

 月に一度、旬刊政経レポートと記事交換をするコラボをさせていただいています。第六回目は智頭町の金兒英夫新町長様のインタビュー記事を掲載させていただきます。

智頭町 金兒英夫新町長に聞く

 任期満了に伴い実施された智頭町長選挙において、元副町長の金兒英夫氏が元町議の高橋達也氏を破り当選した。強烈な個性を放った寺谷町政を継承しつつ、今後、独自色も含めどのような町政運営をしていくのか。新町長に聞いた。(2020年7月1日収録)

健康寿命増進と移住定住促進

まず選挙戦を振り返って。

 行政畑でやってきて、寺谷町政で副町長をずっとやってきた立場として選挙に出て、寺谷誠一郎のまちづくりを見てきた者のひとりとして、それが間違っていないんだと思っている。

 ただ、私は金兒英夫であるから、そのままということにはなりません。路線を継承しつつ、皆さんと一緒になってさらにまちづくりを進めていきましょうと。それは理解してもらえたのかなと思っています。

略歴をお願いします。

 昭和28年8月1日生まれの67歳。最終学歴は鳥取大学の農学部です。智頭で生まれ育ち、ずっと地元です。大学を卒業してから土建屋で1年働いた後、役場に入りました。

 役場に入って40年9ヵ月。総務課長の時「副町長になれ」と言われ、58歳でいったん退職。寺谷町政の中で8年務めた副町長を辞し出馬した、という事です。

これから町長として、一番取り組みたいことは。

 選挙戦でも言ってきたんですが、平均寿命と健康寿命の差が大きい。智頭町の平均寿命がいま、男女合わせて84~85歳くらい。一方、県が標榜している健康寿命というものがあって、それは智頭町では74~75歳くらいなんです。つまり10年の差があるわけです。

 10年間ずっと患って亡くなる、というパターンのお年寄りがたくさんおられる。そこを何とか変えたい。

 動けて、毎日が楽しくて、飲んだり食ったりできて、ある時さっと終末を迎えられる。そういう事にできるだけしていきたい。

 ミニデイとかそこで健康体操したりとか、いろいろ工夫して、少しでも寝たきりにならないお年寄りを増やしていこうと。それはこれまでもしてきたことなんですが、さらに充実させるようなこともやっていかないといけないと考えています。

高齢化とともに人口減も大きな流れの一つです。

 構造的なもので日本全体で減ってきている。ただ、減少する曲線をいかに緩くするかということは考えていかないといけない。

 それについてはまず、移住定住の取り組みを強化していきたいという思いを持っています。森のようちえんなんかでも、移住定住されてきた方もおられるし、林業でも農業でも、移住してやっていこうかという人間もいるわけです。

 今後も、そういう事例をどんどん増やしていきたい。特に林業。智頭町は山ばっかり、93%が山ですよ。右を見ても左を見ても木が植わっている。

 実は数年前から、やり方によっては林業が生業としてやっていける、というのを『智頭ノ森ノ学ビ舎』っていう、林業の若いグループが発信してくれていますし、それを見て「林業でやっていこう」という思いをもって移住してきた人間もいる。

 そういったグループに、例えば町有林のうち60丁歩近くを「好きに使え」と提供したり、練習で間伐した木は売ってもいいことにしたり、道がないのなら町が予算をつけて作業道を整備したり、そういう事を前から進めています。

移住してきて林業をされている方は今どれくらいいるんですか。

 今のところ、生業として成り立っているのは2人。でも、特に冬季など、林業だけではなかなか難しいので、そういった事もひっくるめて支援していかないといけない。

 そこで智頭で林業だけを生業にしている若い、40過ぎくらいから手前の連中が何人かいますので、そういうグループの中でやっていく。女性もどんどん参加されています。

 移住定住の取り組みですが、そういう事もしながらやっていきたい。当然、移住対策なんかもそういった町独自のやり方で、自然の中で子育てがしやすいんだとか、制度的には保育料の完全無償化、町内の通学費も全部無償化しましたし、給食費も昨年度から負担を半分にしているんですよ。マニュフェストの中には、これを無償化に持っていきたいと。

 そうしていった結果、「智頭町は子育てがしやすい町だ」ということになれば、子育ての期間だけでも、智頭町に来て住んでみようかと。

一時的な移住もありなんですね。

 それは、ずっといてほしいですよ。それでも、保育園、小学校、中学校と行けば十数年。その間だけでも住んでいただくということになれば、その間だけでも人口が増えるわけです。

現在の移住者の状況は。

 実績的には少しずつ増えていっている感じで、合計でおよそ300人くらいいると思います。

 移住定住用に、「三田テクノパーク」という企業誘致用に造成した場所、いまは夢が丘団地と名称を変えていますが、そこに一戸建て住宅を5戸建てた。そこはもうみんな埋まり、同じものをもう5戸建てようかなと思っています。

 10戸になればある程度集落機能ができるんじゃないかと思いますし、そうすれば住民自治が生まれ、変わってくるのかなと。やっぱり、隣の人が何しているのかわからないみたいな状態ではなく自治集団にならないと、何をするにしても力が発揮できないし、他の集落や町とも関わってほしいし。

智頭町のスタンス「基本は住民自治」

今後の智頭町はどのような方向に進むのでしょうか。

 人口が減少すると、当然税収も減ります。智頭町もご多分に漏れずそうで、自治体としての基礎体力は減っているわけです。当然地方交付税は来るんですが、基礎体力は重要なので、きちんとした町の力をつけるには、やはり最低限の人口は必要です。

 智頭町もピーク時には1万4千人くらいいました。それがいま7千人を切っている。そうした中で、過去の時代を知っている町民には、「行政はあれもできるはずだ、これもできるはずだ」という思いがある。

 でも残念ながら、今の状況では「あれもこれも」できない。「あれかこれか」にしてほしい。そういうような事を説得しながらやっていかないと、まちづくりが進まないというのが実状です。

 これからの智頭町は、そういうものをいかにピックアップして取捨選択し、町の皆さんに納得していただくか、満足していただくかというのをやっていかないといけない。これは、どこの自治体も同じだと思います。

そうなると町長を含め、役場のリーダーシップ、行動力が問われてきます。

 そうです。その辺のところは私だけじゃ無く、智頭町として、住民の皆さんにどう理解を求め、どう理解をしてもらうかだと思います。

具体的にされている取り組みはありますか。

 まだありませんが、寺谷町長の時、集落懇談会をしたことがあります。そのようなことをもう一度したいなという思いはあります。

 ただ、その時は87集落回るのに、2年以上かかった。なので、何かしら違うやり方で、地域の皆さんとの話し合いの場を持てたらと考えています。

その懇談会で、実際に良くなった部分は。

 それが全てではありませんが、例えば5つあった小学校区単位で地区振興協議会というものが作られました。それぞれの活動に助成をしています。

 富沢地区だけは古い建物を壊してコミュニティセンターを建てていますが、後の4校は現存し、協議会と地区公民館として地域を盛り上げる役割を果たしてもらっています。

 智頭町のスタンスは、基本的に「住民自治をして頂戴ね」というものです。先ほども税収の話でしましたが、なにもかにも行政、ではないよと。

 そのうえで、「この地域では特にこれをしたい、でもここまではできるけどその先が難しいからそこはお願い」。そういうやり方で街づくりをしていこうよと。

町民の理解は。

 理解してもらえています。例えば、旧山郷小学校は、いま宿泊機能を備えています。そこを地区振興協議会で経営している。彼らも理解して、自分たちで社団法人を作ったりして、「もらうばかりじゃなく、自分たちも金を作るんだ」と。

 地域経営をしていくんだという意識が徐々に増してきています。さっき言った富沢地区でも、菌蕈研究所経由できくらげの栽培をしていて、できたものはリンガーハットに買ってもらっています。それによって、少しかもしれませんが地域の人々の収入増につながっている。

 ちょっとしたことでも、地域のみんなが参加して、それができるということはいいことだし、特に障害を持った方にもできるというのがさらにいい。

その他の旧小学校区でもいろんな取り組みを?

 今のところ、まだ出来るところだけでしている感じですが、「あそこの協議会がしたのが良かった」となって、隣の集落がそれを見て「お、わしらもせないけんな」となってくれれば。そこはやはり競争だし、そうなってほしい。

5つの小学校区を核とした地域活動。ほとんどの町民が参画している感じですか。

 いや、まだまだ一部ですね。協議会の活動に携わっていない町民も多いので、そこはやはり集落懇談会のようなことで声を聞く場が今後必要だと感じています。

 声を聞くという事では、以前から住民の声を町政に反映させるための「智頭町百人委員会」があります。これが10年くらい続いています。

 これも、いまある程度メンバーが固定化されてきて、少々マンネリ化してきているので、新しいメンバーを入れ、違う目、違う角度で町を見るというようなことが必要になってくるなと思っています。

 なにせ、前町長の存在感がすごかったですから(笑)、なかなかああいった人間にはなれないですけども、でもやはり、私も傍で見てきた分、何と言いますか、民間からどんと入ってきて、行政を知らなかった彼を押したり引いたりしてきて、ある程度の思いも分かる。

 ただ、あの発想力はなかなかできないなというのは確かです。だからこそ丁寧に住民の声を聞いたり、百人委員会みたいなところで、発想を出してねという事もしていかないと。

「何もない」のが良いのかもしれない

次に、金兒町長が見た智頭町の魅力について。

 このまちで生まれてずっとここで育っているので、魅力と言われてもなかなか気が付かないし、実は私も「何もない町だで」と言ってた。

 でも今になって思うと、その「何にもない」のが良いんじゃないかとも思う。

 何でも万能にそろえようとしても田舎には限界があるし、実際うちには山しかない。けど、山がある。これは結局、お金を生む財産だと思います。

 私も含めて、地元に居る者ではなかなかいい方法を思いつかない。

 何を売りにするか、ちょっと見方や角度を変えて考えれば、それは売り物になるし財産にもなるんじゃないかと。そうやって、魅力ある町につなげていきたい。

 私としては山がある、手入れをする。そして、はたから見ても美しい町、「智頭っていいなあ」って言われるような田舎にしたいなと。

山の手入れは大事ですか。

 大事です。手入れしてない山は保水力もなくなり、雨で筋堀りができて、それが繰り返されると木が倒れる。間伐材も切りっぱなしでその場で腐り、雨が降って泥や腐った木が流れてきてダムみたいにせき止める。さらに土石流など危険が増す…。

 そんな山がまだまだいっぱいあるんです。だから悪循環を断つために、道路を入れ間伐をし、手入れをして保水力のある山にしていかないと。

間伐材を地域通貨に変える試みもありました。

 いま温水プールの補助熱源として間伐材のチップを燃やしているんですけど、そういった風にして「とにかく材を出してくれれば晩酌代くらいにはするから」としている。

林業・農業以外の産業は。

 今回、コロナの関係で、LEDなどを製造する㈱トミサワ(智頭町南方一一八六、林和久代表)という会社が、99%滅菌する高機能マスクを作った。それが今後どうなるかはわからないが、これをきっかけに、新しい町の産業の一つになってくれたらいいなという思いはあります。

 どうしても農林業以外の商工業という部分では弱い町ですから、産業振興というとどうしても目の前にある木だ、田んぼだということになる。

 いろいろと、都会の田舎志向とか、動きたいところもありますが、今のコロナ熱が下がってからですね。それまでに土台の考え方くらいは持っておこうと思っています。

 今回のコロナで、金券を一人五千円分配りましたが、智頭町の登録商店じゃないとだめよという風にした。景気浮揚的に考えると、当面はやはり町内にお金が落ちる仕組みを作らないと。

子供らが夢を描ける智頭町に

 災害に強い街づくりも重要です。災害が起きた時に、それにいち早く対応できる街づくり。それを各集落にお願いしたい。

 具体的には、今住んでいる集落の実情を皆さん知っておいてねと。ここには足の悪いおばあさんがいます、ここには寝たきりの方がいます。避難するときにはそういう方も気にしながらしてくださいねと。

 その上で、どの道が一番安全なのかとか、逆に危険箇所はどこなのかとか、そういった事をあらかじめ知っておけば、いざという時に対応ができるし、普段の訓練もしやすくなる。

 今、うちの町では87ある集落の半分以上で、自主防災組織まではいかないけどそういう事ができるような形になっていますが、これをさらに増やしたい。

最後に、町長の思い描く智頭町の未来について。

 今、うちは子供が生まれる数が年に40人くらいしかいないんです。年間140人くらい亡くなるので、差し引き100人減っている。

 入学式になると、移住してきた子も含めて50人前後になるんですが、子育て世代への支援も含めてですが、町として、いかにこの子供たちに、夢を持ってもらえるか。

 当然、この子らは18歳になって、大学や就職で町を出る人間も多いわけですよね。それは出来るだけ智頭におってほしいのは当然、願いとしてはあるんですが、出るにしても「この智頭に生まれてよかったな」とか、他所で「地元の智頭はこんないいところがあるんだよ」とか、大きくなってから「子どもの時にこんなことがあったんだよ」とか言えるような、子供たちにはそんな人間に育ってほしいんです。

 だから、そういう子供らを育てる町、本来それは、地域が育ててくれるものかもしれません。行政はそのちょっとしたお手伝いしかできませんが、そういう智頭町になってほしいという思いがあります。

 実は、百人委員会には中学生バージョンがありまして、中学生が議論して「あれをしたい、これをしたい」と。じゃあ予算つけるから、自分らの力で、やり方も含めて考えてしてよと。そういうのをやっています。

 毎年2年生の時に計画して、3年生でそれを実施する。そういう事もやっています。

面白いアイデアはありましたか。

 沢山ありますよ。例えば、智頭町をPRするパンフレットを作って三宮で配りましたし、智頭町は「全国民泊マラソン」というイベントを毎年しているんですが、参加者に智頭町内の坂の具合など、地形情報も含めた案内書みたいなものをつくって渡したりとか。

 本当にいろんなことを考えてやってくれています。将来「智頭町はこんなこともさせてくれた」となってくれたらいいですね。自らが考えてやりたいと言った事をさせる。それは本当にいい経験になるし、智頭の将来にもプラスになると信じています。 いずれにしても、やっぱり楽しい町でないと。沈んだ町では面白くない。

ありがとうございました。

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