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NPO法人学生人材バンクに迫る〜人材バンクの見据える未来 【後編】〜

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NPO法人学生人材バンク

 TOTTORI BUSINESS ONLINEでは、「鳥取の営みの最大化」を目的に、地域の様々な営みを紹介しています。今回、NPO法人学生人材バンク(以後、人材バンク)について、代表である中川玄洋さんにお話を伺いました。

 ※本記事は後編になります。前編記事はこちら
 NPO法人学生人材バンク〜人材バンクの事業について【前編】〜

若者の地域・企業との関係について、玄洋さんなりのお考えがお聞きしたいです。

 大学生については、地域との接点が限定的であると思います。実際に、地域の企業を知る機会は徐々に増えてきてはいますが、鳥取で就職したい学生や、鳥取で何かをやりたいと思っている学生がそもそも少ないように感じます。

 それは、僕らが学生に情報を届けられていないという点もありますが、世の中に対してのアンテナが低いように思うのです。新型コロナの状況を見ればわかるように、世界は繋がっていて大学卒業後の仕事はそういった世界に関わることもある。

 一方で、四年間世の中に対してアンテナが低いままでいることは、若者においてはリスクだと思うのです。これだけ変化の激しい世の中ではアンテナが低いと危険を回避できず、危険に巻き込まれてしまいます。

 こういう状況下において、「自分から情報を取るような習慣を大学生時代の時に身に付けられないか」、「もっと大学時代の4年間にいろんなことをやってみれば良いのにな」と率直に思います。

 サークルに入ったらサークルだけ、バイトに行ったらバイトだけになるみたいな状況はあまり良くないと感じます。

 それは、コミュニティが小さいから。もしくは同世代だけの社会だからです。この変化の速さと、具体的に行動することの難しさを経験をして、自分なりに生き抜く力を、大学生のうちに得といた方がいいかなと思います。

 それを得るには色んな人に会った方がいいです。そのために地域に出てみる、企業と何かやる、社会人の人と関わることはやったほうがいいんだろうなっていうのは思います。

 地域の方には、チャレンジには寛容になって欲しい。学生って毎年変わるので、ムーブメントみたいなものができたとしても、それを3年ぐらい丁寧に燃やしていってやっと形になる気がします。けっこう難しいなと思っています。

 学生が地域に出なきゃいけない、続けなきゃいけないと言うわけではないけど、出てくる子は受け止めて欲しい。そして、見守ってもらえるとおもしろいんじゃないと僕は思います。

 自分はそうやって生かされてきた気がしています。周りの大人が良かったから今があると思っています。

 地域に出ることを大学生時代に体感しといた方がいいと言うはっきりとしたエビデンスはないけれど、世の中的には流れがそこまで来ていて、やる人とやらない人の差がどんどん開いている感覚はあります。

 面白い学生なら一緒にやりたいって経営者の声は聞くので、学生はチャンスだと思います。

学生にとって鳥取県の良さと課題は何かありますか?

 鳥取県は東西100km南北30kmで狭いがゆえに、人と繋がりやすい地域と感じます。大学生で行動を起こすことに対して、地域の良い意味で「変わった大人」が興味を持ってくれやすい土地であるとも思います。

 だからこそ、「私こんなテーマで世の中のこと考えてます」って投げ込んだら、意外と拾ってくれる人がいる土地だと思います。この仕事をするようになって、地方ってどこもそうかもと思ったりするのですが、どこにも僕みたいな人は少ないけど必ずいて、いろいろ繋いでいる。

 プレイヤーになる若者が圧倒的に少ないからこそ、地域の大人たちはみんな、そういうことをやる人を気にしているんです。鳥取は日本一人口が少ない県なんだから、若者への注目度もナンバーワンに違いない。

 そういう学生たちがいれば、一緒にやろうと話や、やってみたらいいんじゃないとなると考えています。ただ、どこの地域に行って、どんな話しをしてもいいわけではなく、感度が高い人やコミュニティに投げ込むことが大事。

 そのため、適切な所に相談に行けば繋いでもらえて、それが連鎖していって、ものが形になっていく、というプロセスを歩んでいくのがおススメです。鳥取はそういう土地であるんだという事を学生に伝えるにはどうしたらいいのかなっていうのが、現時点での僕や弊社の課題と考えています。

 今年から、鳥取大学内のCDLの管理もさせてもらっているので、後期からは企業・大学生をつなぐ動きもやっていきたいと考えています。

人材バンクが行う活動を通して、学生に身に付けてほしい力は?

 学生には、しなやかに生きる力を身に付けて欲しいです。とある時期に流行った技術だけで、生き延びられるってことはそんなに無いなって思うんです。

 それよりかは、今その場にいる状態で、自分はどんな選択肢を持っていて、誰に頼るのかとか、自分は何が得意で何が苦手なのかを判断した上で、「決められる力」が生きていくうえでは大切なのではないかと考えます。

 自己決定をしていくことが大事。昨日と、今日の自分とが全然違う状況に晒されることも当たり前として捉えておかないといけなくなってきました。災害やコロナなど体感したのでなんとなくわかったと思うのですが。

 そんな時に過去は良かったとか言ってもしょうがなくて、いかに今を捉えて動くかだと思います。

 自分で考えて、自分で決めて振り返っていく。ただそれだけのことを続ける。 地方の大学生は、それなりにしなやかに動けるはずだし、時間など余白があるはずだから、大学4年間で、自分で企画を考えて、小さく実行して、振り返ってちゃんと凹むっていうことをしておくと、社会に出て何か困難が訪れた時に、さあ自分はどうしようって言う視点で始められると思うんです。

 それができないと、おそらく誰かのせいにすると思うんです。誰かのせいだというのは、気持ちは軽くなるかもしれないけど、状況は解決しないし、どんどん、しんどくなっていくのではないかと考えます。

 そこで、自分としてどうするかを決められると言うのがたぶん大事で、大学時代はそれを学ぶ時間と空間があるような気がします。経験上、一番は卒論だと思うけど(僕は大した論文は書いてませんが汗)、地域での活動だったり長期インターンで試行錯誤するのはありだと思います。

 多様な世代や、価値観に囲まれ試行錯誤することで、しなやかに生きる力が得られると思います(ここに得る技術は異なると思いますが)

人材バンクさんが今まで行ってきた活動を踏まえて、考えられている今後の方針

 弊社のプロジェクトを通して、鳥取県内に卒業生が残る数が増加しつつある。現在では、県内にIターンした鳥大環境大生が合計で30人ぐらいになります。

 今までは大学生がいて、基本的には1,2年生の時に、農村16きっぷなどのプロジェクトに所属をしていて、3年生になるとインターンをやると言う子が出てきます。そして卒業して県外(地元など)に就職していく。

 それはそれで、日本全体で見たら良いことなんですけど、最近は関わった学生が、そのまま就職活動をして鳥取県内の企業に残るという選択をする子たちが出てきています。

 その子たちが若手として、何か面白い事をやっていけると、地域がもっと面白くなるかなって思うんです。この層に向けた事業を少しずつ手掛け始めています。具体的には企業研修だったり人材育成の場面ですね。

 また、若手の経営者と色んな事をする機会も増えてきています。これは僕自身が若手経営者に世代が近いというのもあるのですが、「同世代の人たちと街を面白くしよう!」みたいな動きもしています。

 別に弊社は移住者誘致企業ではないので、無理に関わった学生を鳥取に残れとは言ってなくて、「残りたいのであれば、選択肢を見せてあげたい」というスタンスです。

 そういうことを考えると、更に多くの企業との接点を増やしていきたいと思うんです。現在は、鳥取銀行にご紹介していただいたりして、弊社の認識は少しずつ広がってきています。

 今後、弊社をどうしていきたいかと言われたら、地域の企業さんとちゃんと稼ぐことができるプロジェクトを作っていきたいし、それで雇われていく鳥大とかの卒業生とか我々の周辺の人たちと、「面白いことを仕掛けるのは学生人材バンク!」というイメージを定着させてたいのは会社としてはあります。

では、最後に。人材バンクが今後目指していく姿はどのようなものなのでしょうか?

 自分で考えて動ける人が地域の中で増えて、他の人に刺激を与えて、地域全体で盛り上げていく。結果としてそういう人が多い地域は面白いと思うんです。

 僕が静岡出身だけど、鳥取に残って今の仕事を思いついたのも、当時の周りの大人が面白いなぁと感じたから。それをどんどん増やしたい。

 人の中にある小さな炎を見つけ、大きな炎に変えていくお手伝いっていうのが、我々がやるべきことなのではないかなと思います。

  • お話を聞いて状況整理する
  • 軸を一緒に考えて仮説を立てる
  • スケジュールとか人材とかを決めたり当てはめたりする

 それを一緒に作っていくことで、自分から行動して、他の人を巻き込んでいける人が増えると信じています。

 そのためには、具体的にどうしたらよいかというノウハウを溜めてたり、伴走するコーディネーターを増やしたり、育成もしないといけないです。

 昨年、ビジョン合宿というのをやりまして、「なんかしたいです」と言った人が法に触れること以外であれば、最初にそれを肯定するのは我々でありたいと言うのを社員には言いました。

 誰が賛同してくれるかは分からないけど、少なくとも僕は今、賛同していますって言える組織にしたい。「いいですね、大丈夫、やりましょう」です。

 NPO法人として鳥取の中で「学生人材バンクがまた面白いことをやっているよね」と言ってもらえて、他の団体さんから相談を受けるようなポジションにならないといけないと思っています。

 僕もNPOキャリアが20年に近づいています。そういう立場がやってきているんだなと勝手に感じています。

 学生人材バンクの活動を通して、若者にとって鳥取県が就職の時に比較対象であれるようにしたいっていうのが、直近で目指していく姿なのではないかと考えます。

 そのために、県内の企業の方と一緒に動きを作っていきます。引き続きよろしくお願いいたします。

NPO法人学生人材バンク

  • 2002年当時大学院生だった代表理事の中川が学生団体として創業
  •  2008年にNPO法人化、大学生と地域・企業をつなげる事業を行っている通算18年目。
  •  創業時から主に鳥取県の委託事業を受託して生きている。
  •  近年では都市部副業人材のコーディネートや県内若手社会人の研修など対象となる世代を徐々に広げている。
  •  2015年に鳥取銀行、2017年鳥取信用金庫、2018年倉吉信用金庫と業務提携を結び、地元中小企業との連携も深めている。

NPO法人学生人材バンク

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